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第1774話

「さ、早く買い物して帰ろう。夕飯の準備は私がするね」 「ああ、わかった」  二人で市場に行き、夕飯の食材を買い込む。  兄は肉や卵、ミルクや小麦粉ばかり購入し、野菜には見向きもしなかった。さすがにそれでは困るので、買い物籠を奪って強引に野菜も詰め込んだ。 「おや、ケイジじゃないか。また趣味のお店やってるのかい?」  とあるテントの前で、兄が足を止めて談笑し始めた。  案の定そこにはケイジが立っており、蒸かし器からはもくもくと湯気が立ち上っていた。 「ケイジ様……? 市場で見かけるのはお久しぶりですね」 「ふむ、たまに店を開くと様々な発見を得られる。貴殿たち兄弟は変わらず元気そうだな」 「はい、おかげさまで。次の決勝戦、よろしくお願いします」  そう挨拶したら、ケイジは満足げに腕組みをした。 「なるほど、しばらくヴァルハラを留守にしている間に、いい目つきになったようだ。やはり後日に持ち越しにしてもらって正解だったな」 「持ち越し……?」 「貴殿たち、しばらく家を空けていただろう? ざっくり一ヵ月くらいか? Cブロックの決勝戦はその間に行われる予定だったのだ」 「えっ!? そんなに……?」  体感的にはせいぜい一日くらいしか経っていないと思っていたのに、一ヵ月も経っていたとは。やはり透ノ国に行くと、時間の感覚が狂ってしまうようだ。  ケイジは続けた。 「だが、真面目な弟君が決勝戦をサボるはずがない。どこに行ったかは知らんが、必ず帰ってくる。そう思い、ヴァルキリーたちに直談判して一ヵ月後に延ばしてもらったのだ。私も、弟君と戦う機会が失われるのは惜しいからな」 「そうだったんですか……」  それはありがたい話だ。  あのヴァルキリーたちが延長を承諾したのは不可解だが、ケイジと戦えるのは事実。今の自分の力を、思いっきりぶつけることができそうだ。  アクセルは丁寧に礼を言った。 「ありがとうございます、ケイジ様。戦う機会を残しておいてくださって、本当に嬉しいです。決勝で戦えるのを楽しみにしています」

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