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第1790話
「兄上……?」
リビングに兄の姿はなかった。
テーブルには朝食と思しき皿が並べられており、ご丁寧に全部ラップがかけられていた。今日のメニューはベーコンエッグにトーストである。作りたてならもっと美味しかっただろうに、寝過ごしてしまったのが悔やまれた。
――それにしても、どこに行ったんだろう……?
庭を覗いても鍛錬はしていなかったから、市場に買い物にでも行ったのかもしれない。あるいは、洗濯物を出しに行ったとか。
昨夜はかなりベッドを汚してしまったからな……。
「…………」
仕方なくアクセルは兄が作ってくれた朝食を温め直し、コーヒーを入れて一人で食事した。兄が焼いたベーコンはやたらと分厚くて食べ応えがあり、朝からステーキを食べている気分になった。
「おや、もう起きてたのかい?」
朝食を平らげ、コーヒーを飲み干し、食器を片づけているところで兄が帰ってきた。
兄は洗いたてほやほやの洗濯物をソファーにドサッと置き、服やタオルをせっせと畳み始めた。その中には案の定、ベッドカバーやシーツも含まれていた。
「身体は大丈夫? お前、昨日は結局最後の最後で失神しちゃったからねぇ」
「あ、ああ……すまない。でも今は何ともないよ。たっぷり寝たし、兄上が全部後始末してくれたからな」
「そっかそっか。じゃあお前、新しいシーツをベッドにかけておいで。あと枕カバーもね」
綺麗に洗われたシーツとカバーを渡されたので、アクセルは寝室でピシッとベッドメイクした。新しい柔軟剤を使ったらしく、ほんのりした花の香りが心地よかった。
――さて……そろそろ鍛錬するか。
トレーニング用のジャージに着替え、兄を誘って庭に出る。ピピも含めた三人で軽く走り込みをし、その後筋トレや素振りを行った。
「お前、随分素振りも上手くなったね」
兄が軽く汗を拭いながら言う。
「丸太にもほとんど引っ掛からなくなってるし。以前は五センチの隙間でも苦労してたのにねぇ」
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