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第1793話

「無理は禁物だよ」 「えっ……?」 「お前、今も『絶対勝たなきゃ』って意気込んでるだろう? そんな調子じゃ、死合い本番も結果を急いであからさまな攻勢に出かねない。でもそういうのは、ケイジは全部お見通しだ。適当にいなされて返り討ちに遭うのがオチだよ」 「う……」 「だからお前は、あくまでいつも通りに、平常心でケイジと向き合いなさい。勝ちたい気持ちはわかるけど、だからといって勝ちを焦ったらその時点で負けてしまうよ。試合結果は一旦置いておいて、ケイジと対決することだけに集中しなさい。いいね?」 「は、はい……」  恥ずかしくなり、アクセルはふと視線を逸らした。  ――勝ち急いでいること、達人レベルの人にはすぐ見抜かれちゃうんだな……。すごいし、ちょっと恐ろしい……。  そういやケイジの修行場を借りている時、よく「気持ちが乱れているようだ」とか「何か迷いがあるみたいだな」とか「吹っ切れたのなら何より」などと、声をかけられていたことを思い出す。  ちょっと見ただけでそれがわかってしまうのだから、対面勝負したら一発で見抜かれてしまうに違いない。  アクセルなんかはあまり人を見る目に自信がないから、そうやって相手のことを的確に見抜けるのは羨ましい限りだ。 「そういや、トーナメント終わった後にお前、狩りの当番入ってたよ。久しぶりの仕事だから、そっちも頑張りなさいね」  唐突に、兄がそんなことを言い出す。そういえば、トーナメント後のスケジュールは何も確認していなかった。 「ああ、そうなのか……。ちなみに引率は誰だ?」 「いや、だからお前だよ」 「……えっ? 俺?」  びっくりして目を丸くすると、兄は当たり前のように腰に手を当てた。 「お前はもう新人でも下位ランカーでもない。立派な上位ランカーの仲間だ。さすがにトップセブンには入らないけど、新人戦士を引率する側にはなっている。引率される側は卒業したってことさ」 「そ、そうなのか……? 全く実感が沸かないんだが」

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