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第1797話

 白刃取りは本来、掌同士をバチーンとくっつけて行うものだ。  相手が太刀一振りなら有効だが、アクセルのように両手に武器を装備している場合は隙が大きくなるので、まずやることはない。  そう思っていただけに、指の股で受け止められたことは純粋に衝撃だった。  あんなことが可能なら、こちらの攻撃はほとんど入らないじゃないか……。 「ふむ、なかなかいい振り下ろしだった。素振りの速度も上がったな」  長年の師匠のような口ぶりに、アクセルはまた気後れをした。  何かこう――手が届かない高みから冷静に観察されているような、戦っているのではなく打ち込み稽古をさせられているような、そんな感覚が襲ってきた。  こんなの、子供が大人に喧嘩を売っているようなものじゃないか。今の自分じゃ絶対に勝てない。  ――兄上、ごめん……やっぱり勝つのは無理みたいだ。  アクセルはチラッとボックス席の兄を見上げた。  兄はこちらを見下ろし、やれやれ……と呆れた顔で軽く首を振った。  途端、何故か兄の声が心に響いてきた。  ――戦意喪失しかけてるねぇ……。ケイジの強さに怖気づいちゃった?  ――それは……だって、ケイジ様あまりに強すぎて……。  ――まだ素振りしただけじゃない。それでもう戦う気力が削がれちゃったの?  ――俺だってできることなら戦いたいよ……。でも、どうすればいいかの勝ち筋も全然見えてこないし……。  ――何を言っているの? この戦いに最初から勝ち筋なんてないでしょう。  ――えっ……!?  衝撃的なことを言われ、さすがに動揺しそうになった。  兄上、俺に勝って欲しいんじゃなかったのか……?  ――いくらパワーアップしたところで、お前じゃケイジには勝てないよ。多分私でも勝てない。体格も戦い方も圧倒的に不利だからね。  ――そんな……。  ――でも諦めるのは時期尚早だよ。無茶でも玉砕覚悟でぶつかっていったら、いずれ何かが起こるかもしれないし。  ――何かって……?  ――まあとにかく、もう少し頑張りなさい。決勝戦がこれで終わりなんてつまらないからね。

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