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第1798話

 それを最後に、兄の声は聞こえなくなった。何だかよくわからないことを言われてしまい、逆に混乱してしまいそうだった。  ――勝ち筋がないって……今そんなこと言わなくても……。  まったく、人の悪い兄だ。そんな風に思うのは勝手だが、ならばせめて死合いが終わった後に言ってくれればいいのに。  というか、あんなすごい人相手に玉砕覚悟でぶつかったところで、何かが起きるとも思えない。何をされても軽くいなされてしまいそうで、ぶつかるだけ損な気がしていた。  ――でも、ここで降参したらさすがに大顰蹙を買うだろうしな……。  客席は十分すぎるくらいに盛り上がっている。  こちらに対して「もっと戦え」だの「早く斬り合え」だのといったヤジが飛んでくるし、兄も楽しそうにこちらを見下ろしてくる。そんな状況で白旗を上げることはできない。  いや、そもそも死合いに「降参システム」はないけれど。  ――どちらにせよ、戦うしかないってことか……。  アクセルは深く息を吸い、時間をかけて息を吐き切った。  そして腹に力を込めて、もう一度ケイジと向き直った。  勝てるとは思わない。だが、このまま何もしないで敗北することもできない。  無茶でもいいからたくさん攻撃を仕掛けて、何かが起きることを期待するしかないだろう。 「ふむ、ようやくやる気が再燃したようだな。このまま戦意喪失していたら、少し喝を入れてやらねばと思っていたぞ」  と、ケイジが顎に手を当てる。アクセルが怖気づいていたこと、やはりケイジは見抜いていたようだった。  アクセルは両手の小太刀を構え直し、言った。 「……ご心配をおかけしました。もう大丈夫ですので、玉砕覚悟でぶつからせていただきます」 「うむ、それでよい」  短く頷いた途端、ケイジの背後からくるくると勢いよく薙刀が飛んできた。アシスタントの誰かが放り投げたようだった。  ケイジはそれをパシッと受け取ると、掌でくるりと回転させてカーンと石突きで地面を打ってきた。

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