1811 / 2296
第1811話(フレイン視点)
棺当番は更にこんなことを言い出した。
「面倒なことになるから兄貴には言うなって脅されたんですけど、棺ごと持って行くとか、こんなこと初めてで。勝手に持って行くのはダメだろうと思ったんですけど、止められるような相手じゃなかったし……従うしかなかったんです、すみません」
「…………」
「とにかく、アクセルさんの棺はここにはないんです。ヴァルキリーたちが知ってるだろうから、ヤツらに聞いてみたらどうでしょうか」
当番の言葉が終わる前に、フレインはくるりと踵を返した。
礼を言うのも忘れ、オーディンの館を飛び出すと真っ直ぐ世界樹 に向かう。
ヴァルキリーの館に通じる扉に入ろうとしたら、散歩中にミューに声をかけられた。
「あれー。フレイン、どうしたのー? なんかすごい急いでるみたい」
「うん、ちょっとヴァルキリーのところにね」
「あ、クレームつけに行くの? なら僕も行くー」
詳細はわかっていないだろうに、ミューは何かを察したようについて来てくれた。少しホッとした。
速足で扉を抜け、ヴァルキリーの館前に辿り着く。
館の前にはいつも通りテントが張られており、そこに受付と思しきヴァルキリーが三人待機していた。彼女たちは一様に退屈そうな顔で欠伸を噛み殺している。
それを見たら猛烈に腹が立ってきて、フレインはつかつかと受付に近づいた。
そしてバン、と両手でテーブルを叩き、淡々とした口調で言った。
「私の弟を返してくれるかな」
「な……何ですか、あなたは。いきなり訪ねて来て無礼な」
「あなた、戦士 ですよね。またクレームをつけにきたのですか?」
「私たちは低俗な戦士 と話している暇なんてないんです。何か意見があるのなら、正式な要望書を用意してから……」
とうとう我慢できなくなり、フレインは素早く太刀を横に振り抜いた。
受付をしていたヴァルキリーのうち、正面と右に座っていた者は何もできずに首を飛ばされてしまった。
ともだちにシェアしよう!

