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第1811話(フレイン視点)

 棺当番は更にこんなことを言い出した。 「面倒なことになるから兄貴には言うなって脅されたんですけど、棺ごと持って行くとか、こんなこと初めてで。勝手に持って行くのはダメだろうと思ったんですけど、止められるような相手じゃなかったし……従うしかなかったんです、すみません」 「…………」 「とにかく、アクセルさんの棺はここにはないんです。ヴァルキリーたちが知ってるだろうから、ヤツらに聞いてみたらどうでしょうか」  当番の言葉が終わる前に、フレインはくるりと踵を返した。  礼を言うのも忘れ、オーディンの館を飛び出すと真っ直ぐ世界樹(ユグドラシル)に向かう。  ヴァルキリーの館に通じる扉に入ろうとしたら、散歩中にミューに声をかけられた。 「あれー。フレイン、どうしたのー? なんかすごい急いでるみたい」 「うん、ちょっとヴァルキリーのところにね」 「あ、クレームつけに行くの? なら僕も行くー」  詳細はわかっていないだろうに、ミューは何かを察したようについて来てくれた。少しホッとした。  速足で扉を抜け、ヴァルキリーの館前に辿り着く。  館の前にはいつも通りテントが張られており、そこに受付と思しきヴァルキリーが三人待機していた。彼女たちは一様に退屈そうな顔で欠伸を噛み殺している。  それを見たら猛烈に腹が立ってきて、フレインはつかつかと受付に近づいた。  そしてバン、と両手でテーブルを叩き、淡々とした口調で言った。 「私の弟を返してくれるかな」 「な……何ですか、あなたは。いきなり訪ねて来て無礼な」 「あなた、戦士(エインヘリヤル)ですよね。またクレームをつけにきたのですか?」 「私たちは低俗な戦士(エインヘリヤル)と話している暇なんてないんです。何か意見があるのなら、正式な要望書を用意してから……」  とうとう我慢できなくなり、フレインは素早く太刀を横に振り抜いた。  受付をしていたヴァルキリーのうち、正面と右に座っていた者は何もできずに首を飛ばされてしまった。

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