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第1812話(フレイン視点)※

 残ったヴァルキリーは、一瞬何が起きたかわからず、呆けたように自分の隣を見ていた。  だが首の切断面から噴水のように血が上がっているのを見て、ようやくサッと顔色を変えた。 「きっ……!」  彼女が悲鳴を上げるより先に、左肩を太刀で突いて黙らせる。  女性を斬るのは趣味じゃないが、相手がヴァルキリーなら関係ない。  というか、そっちが先に大事な弟を誘拐したのだから、どんな目に遭わされても文句は言えないだろう。 「悪いけど、私は今ものすごく機嫌が悪いんだ。口の利き方や態度には気を付けた方がいいよ」 「は、はひ……」 「で、アクセルの棺はどこにやったの? 早く返してくれないかな」 「え、な……」 「あの子は私の宝物だ。それを勝手に持って行くなんて、例え誰であっても許さない」 「は……え……」 「ビビってないで早く言いなさい。あと三秒で言わなかったら、きみの首も刎ねるからね」 「っ……」 「いーち……にー……」  ヴァルキリーは真っ青になりながらも、ごくりと喉を鳴らして早口に言った。 「わ、私は本当に知らないんです……! あなたの言う、『アクセル』という戦士(エインヘリヤル)のことも知りません……!」 「はぁ? 知らないってことはないだろう? きみ、今日はずっと受付やってたんじゃないの? 人の出入りも見てたよね?」 「み、見てました……。す、数名のお姉さま方が、何かの仕事で、棺みたいなものを持って帰ってくるところも、見た……気がします。でも、それがその戦士の棺だったかどうかは、私には……」 「…………」 「ほ、本当です……! お姉さま方は、わ、私のような下っ端には、詳しい事情は……あまり話してくださらないので……。め、命令はされますが、それがどういう意味なのかは……」 「…………」  ほとほと呆れてしまい、フレインはもう一度彼女の肩を太刀で突いた。 「ギャッ……!」 「ったく、きみじゃ話にならないな。もっと上位のヴァルキリーを連れてきて。ちゃんと話がわかる、事情を知っていそうなヴァルキリーだよ。できなければ……わかってるよね?」

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