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第1815話※
そんなことになっていたのなら、兄も怒って当然だ。何が何でも取り戻そうと、殺戮覚悟で乗り込んできたに違いない。
……でもちょっと待てよ?
もしそうだとしたら、今ここにいる俺は一体何なんだ? どうして誰にも認知されないんだ? あちこち自由に移動できるのは何故だ? これは夢じゃなかったのか?
俺は今、どういう状況になっているんだ……?
肝心なことがさっぱりわからない状況の中、兄が脅していたヴァルキリーが館へ逃げ帰っていった。
――さすがに兄上は、ブチ切れると怖いな……。
周りには、若いヴァルキリーの生首や首無しの死体が転がっている。
常人なら少なからず動揺しそうな光景だが、兄は眉一つ動かしていなかった。それどころか、さも当然だと言わんばかりに冷たい目で見下ろしている。自分だったら、いくらブチ切れてもここまではできない。
待っていられなかったのか、兄は自ら館に踏み込んでいった。
もちろんアクセルもついて行った。が、兄の真後ろにいるのに全く気づいてくれない。ミューなどは呑気にペロペロキャンディーを舐めている始末だ。
――これ、いわゆる「幽霊」みたいな状態なのかな……。
あるいは、魂だけ離脱した状態とか。
今は身体が死んでいるから、魂だけふわふわ彷徨ってしまうのは、あり得ない話ではないのかもしれない。
でも……こんなこと、今まで一度もなかった。他の戦士からも、幽体離脱したなどという話は聞いたことがない。
一体どうしてこんなことになっているのだろう。
やはり透ノ国で、最高傑作とやらの魂を吸収したのが原因だろうか。だとしたら、今棺で寝ている自分の身体には、最高傑作の魂が入っているということか?
本物の魂が抜けている間に身体が完全に復活してしまったら、最悪の場合、最高傑作とやらに身体を乗っ取られる羽目になるのでは……?
――いやいや、いくら何でもそんなまさか……。
恐ろしい懸念点にぞっとしかけていると、一人のヴァルキリーが奥から現れた。
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