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第1816話

戦士(エインヘリヤル)が暴れているというので誰かと思えば……あなたでしたか、フレイン」  スマートな鎧を身に纏ったヴァルキリーが、館の奥からやってきた。確かシグルーンだったか。ヴァルキリー専用武器である大槍を携え、頭には両羽根を象った兜を被り、優雅に歩いてくる。 「……ああ、きみか。なら話は早いね」  兄は太刀から手を離さず、低い声で言った。 「今すぐ弟を返してくれ」 「あらまぁ、性急ですこと。能天気なあなたには似合わない(せわ)しさですね」 「無駄口は結構。弟を返すのか、返さないのか、どっちなんだい?」  カチッと指先で鍔部分だけ抜いてみせる。これでいつでも抜刀する準備は整った。 「は~……フレイン、さっきからキレッキレ」  と、背後のミューは呆れながらペロペロキャンディーを咥えている。  止める気はないみたいだが、兄の迫力にミュー自身も圧倒されているみたいだ。  だがシグルーンは全く臆することなく、唇に微笑みを貼り付けた。 「館内の決闘はご法度です。ここに来たからには決まりを守ってもらわねば」 「それはきみたちの決まりだろう。私には関係ない。決闘を避けたいなら、今すぐ弟を返せ」 「さあ、それは。あなたに都合があるように、こちらにも都合がありますから」  シグルーンの表情は変わらない。  けれど、先程より幾分雰囲気が硬くなったように思えた。殺気が固まってきたとでもいうのか、「そちらが抜刀するならいつでも受けて立つ」と言っているかのようだった。  ――兄上、ここは素直に従った方がいい……! 下手に手を出したら、余計にこっちが不利になるかもしれな……。  一生懸命呼びかけたが、やはり兄には届かなかった。  兄は溜め込んでいた殺気を一気に膨らませ、シグルーンに斬りかかった。 「ギェアアアァァ!」  当然彼女も大槍で兄に応戦し、激しい鍔迫り合いとなる。  武器同士がぶつかり合う部分がカチカチ音を立て、その度に火花が散った。 「私の弟を返せ!」 「お断りします。少なくとも、魂が定着するまでお返しすることはできません」  シグルーンの言葉に、アクセルはハッとした。

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