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第1819話
白い空間から、唐突に一人の男が現れた。
やや身構えながら声をかけると、彼はくるりと首をこちらに向けた。
「なんだ、戻って来たのか。せっかく追い出してやったのに」
「っ……!?」
彼と目が合い、愕然と息を呑む。
こちらを見た男は――アクセルの姿にそっくりだった。まるで鏡写しで自分を見ているみたいで、余計に心臓に悪かった。
――これが「最高傑作の魂」……? 何でよりにもよって……。
ギリッと奥歯を噛み締める。
自分の姿でいられるのは実に気分が悪い。しかも身体を勝手に乗っ取って、「アクセル」として振る舞われるのも不愉快だった。
きみは俺じゃないし、「アクセル」は俺ただ一人。兄・フレインの弟も俺だけだ。
だから、何が何でも身体を返してもらう。
アクセルは抜刀の構えを取りながら、言った。
「悪いがこれは俺の身体だ。きみは出て行ってくれ」
「何故だ? きみより俺の方が優秀だ。優秀な方が残った方が、身体も喜ぶだろう?」
「そんなの知るか。身体が欲しいなら、きみはきみ専用のもっと素晴らしい身体を作ってもらえばいいだろう。俺の身体を勝手に使うな。出て行け」
自分にしては珍しく強い口調で言ったのだが、相手の表情は変わらなかった。
「そうしたいのはやまやまだが、生憎俺に合う身体ってのは極めて少なくてね。グロアが『最高傑作』と言っていた身体ですら、俺に耐えられず頭だけが肥大化してしまった。そんな身体に閉じ込められたまま、カプセルの中で腐っていくのを待つのはまさに地獄だったよ」
言われて、研究所地下での出来事を思い出す。
研究所の奥で見つけた「最高傑作」は頭が肥大化し、肌は爬虫類の鱗みたいなものが浮き出ている気持ち悪い姿をしていた。あれではまともに活動できないし、そもそもまともに生きることすら不可能だ。
そういう意味では、同情しなくもない。
「反面、この身体は快適だ。きみが死んだ後に少し動いてみたが、どこも痛くないし動きにくいところもない。きみはしょっちゅう身体をボロボロにしているみたいだから、代わりに俺が丁寧に使ってやるよ。その方が身体にも優しいだろう?」
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