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第1820話
アクセルは少し目を逸らし、軽く溜息をついた。
「きみの出生には同情する……が、だからと言って俺の身体を渡すわけにはいかない。そこだけは絶対に譲れないんだ」
「それは残念だな。こっちも身体を手放したくはないんだ。原則として、ひとつの身体にはひとつの魂しか入れない。ふたつの魂が居続けることはない」
気配を感じ、咄嗟に腰を低くした。
次の瞬間、相手が抜刀して一気に距離を詰めてきた。
「悪いが死んでくれ」
ガキン、と小太刀同士がぶつかり合う。
ほとんど反射的に受け止めたが、止められていなかったらそのまま首を斬られていただろう。それだけ容赦ない殺気だった。
ギリギリと鍔迫り合いをしながら、相手が言う。
「なあ、いいだろう? きみはもう十分生きた。十分に楽しい生活を送ったはずだ。だからいい加減、俺に譲ってくれ」
「嫌だ!」
「何でだよ? きみばっかり人生を謳歌するのは不公平じゃないか。俺にも普通の生活を送る権利があるはずだ」
「それはそっちの都合だろ! 俺にはまだまだやりたいことがたくさんあるんだ! そんなに普通の生活を送りたいなら、きみにふさわしい身体が造られるまで待っているべきだ。俺の身体を自分のもののように使うな!」
キン、と小太刀を弾き上げ、思いっきり蹴りを入れて距離を取る。そして今度はこちらから懐に飛び込んで斬りつけた。
「ハアッ!」
当然のように相手もこちらの斬撃を防いでくる。
だがアクセルは臆することなく、更なる追撃を仕掛けた。両手の小太刀をクロスするように振り下ろし、相手の急所を狙って積極的に攻撃を繰り出す。
――最高傑作だろうが何だろうが、ここは絶対に負けられない……!
自分が天涯孤独だったら、相手に同情して身体を譲り渡していたかもしれない。
でもアクセルには、既に大切なものがたくさんある。兄も自分を取り返すために戦ってくれているし、家ではピピも待っている。
だから絶対に負けられない。勝って、兄と一緒にヴァルハラに帰りたい。
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