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第1822話
これ以上無様な姿を見たくなくて、アクセルは淡々と言った。
「……もういいだろう。きみはそろそろ休んだ方がいい。誰かの身体を乗っ取ることを考えるんじゃなく、もう一度新しい命として生まれ変わった方がいい。ここはアース神族の国 だから、生まれ変わるのも容易なはずだ……きっと」
「っ……」
「もちろん、きみの墓も作る。うちに兄上のコピーの墓があるから、その隣に埋葬してやるよ。兄上と一緒なら寂しくないだろう?」
「…………」
最高傑作がギリッと奥歯を噛んだ。
消滅がすぐそこまで迫っているらしく、姿そのものがボロボロと崩れ始めた。まるで砂の像が壊れていくみたいだった。
これが本当の「魂の死」なのか……。
――ヴァルハラで言う「破魂」も、こんな感じなのかな……。
そこにあるものが崩れ去り、消滅していく。自分の目の前でそれを見せつけられると、やや物悲しい気分にならなくもなかった。自分と同じ姿をしていればなおさらだ。
だけど自分は、最期までそれを見届ける義務がある。
「ち……くしょう……」
擦れた言葉を残し、最高傑作の魂は崩れ去った。崩れた魂は砂のように飛び散り、白い空間にはアクセルだけが残った。
――アクセル、起きて。ちゃんと戻って来るんだよ……。
天から兄の声が降ってきて、アクセルは顔を上げた。
ああ、兄上だ。兄上が迎えに来てくれた。ということは、シグルーンとの戦いには勝ったのか。さすが兄上。
――兄上、今帰るからな……!
アクセルは声がする方に向かって駆け出した。徐々に意識が落ち着く感覚があり、身体の重みも戻って来た。ふわふわした足元がしっかりと地につき、大好きな声に手を伸ばした、次の瞬間――
「っ!」
ビクッと軽く震えたのと同時に、アクセルは目を覚ました。
すぐ目の前には兄の顔があり、こちらを覗き込んで驚愕している。
「アクセル……? お前、ちゃんとアクセルかい……?」
「あに、うえ……」
兄が手を握ってくれていたので、アクセルも手を握り返した。
すると兄は、目に涙を浮かべつつも緩やかに微笑んでくれた。
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