1823 / 2296

第1823話

「よかった……戻ってきてくれた……。ここまで、迎えにきた甲斐があった……」 「兄上……?」 「死に別れなくて、ほんとに……よかっ……」  途端、急に兄の身体が傾いた。  手を握っていた力も抜け、アクセルのすぐ隣にどさっと倒れ込む。 「あ、兄上!? どうしたんだ!?」  慌てて飛び起き、アクセルは兄を抱き上げた。  目覚めてすぐは気付かなかったが、兄の脇腹には槍で抉られたらしき傷が生々しく残っていた。細かい切り傷は数え切れず、頬にも擦れた血が飛び散っている。抱き上げた途端、手が血のりでべっとり汚れてしまった。 「はは……さすがにシグルーンは強いよね……。無傷で突破は、難しかった、なぁ……」 「……!」 「だ、いじょうぶ……お前に変なことしようとしてたヴァルキリーも、おおよそ倒しておいた、から……ね……」  ハッとして周囲を見回すと、地下室にいたヴァルキリーたちが無造作に床に転がっていた。一番近くでアクセルの身体を観察していた二人のヴァルキリー――確かフロックとブリュンヒルデも、背中をざっくり切られたり腹部を抉られていたりで虫の息である。 「うーん……今日のヴァルキリーたちはあまり張り合いがなかったー。地下だから、力を発揮できなかったのかなー?」  と、ミューが血塗れの大鎌を背負う。ここにいるヴァルキリーを始末したのは、兄ではなくむしろミューの方らしい。  驚いて目を見開いていたら、兄が途切れ途切れに呟いた。 「いいんだ……お前が戻ってきてくれさえすれば……。私はどんなに傷ついても、蘇生できるから……。そんなに気にしなくても、いいよね……」 「わ、わかった! すぐ泉に……いや、棺に運んであげるから、もう喋らないでくれ!」  アクセルは急いで兄を背負い、その場から離れた。 「ふふ、やっぱりお前はアクセルだ……。偽物じゃない……。別の魂に、乗っ取られてなくて、よかった……」 「……!」  耳元で聞こえた兄の言葉は、アクセルの胸に小さく刺さった。

ともだちにシェアしよう!