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第1824話

 ――兄上、俺が最高傑作に乗っ取られる寸前だったって知ってたのか……?  だから、あんなに必死に取り返そうとしていたのか。単に攫われた弟を連れ帰るためではなく、身体に潜んでいる別の魂を追い出したかったから。追い出せなければ、アクセルは永遠に別の人になってしまうから。  具体的に追い出す方法はわからなかったとしても、魂が定着するまで何もせずに待っていることはできなかったのだ。  ――兄上……。  兄の愛情が身に沁みてくる。  こんなボロボロになるまで戦って、こちらが目覚めるまでずっと手を握って励ましてくれて、いざ目覚めたら涙を浮かべて喜んでくれる。こんな素晴らしい兄がいるだろうか。  ならば自分は一刻も早く兄の傷を治し、家に帰らなくてはならない。 「あー、アクセルおはよー。なんか変な実験されてたみたいだけど、ちゃんと目覚めてよかったねー」  ミューの間延びした声が、いい意味で緊張感を和らげてくれた。  アクセルは早足で館の外に向かいながらも、彼に苦言を呈した。 「ミュー、一緒に来てくれたのはありがたいが、それなら兄上がこんな無茶をする前に止めてくれよ」 「いやー、止めて止まるような雰囲気じゃなかったからさー。『アクセル取り返すまで死んでも帰りません』みたいな感じだったから、見てるだけにしとこーと思って」 「だからって、止血もせずに放置するか?」 「そこはヴァルハラに帰れば蘇生できるから、ま、いっか……的な?」  よくないよ、と内心でツッコむ。  善意でついて来てくれたミューにこれ以上文句は言えないけれど、友人が流血して失神寸前だったら、もう少し別の対応の仕方がありそうなものだが。 「お待ちなさい……」  館のエントランス近くまで来た時、一人のヴァルキリーに呼び止められた。  そのヴァルキリーも全身ボロボロだったが、大槍を杖代わりにして何とかこちらに歩いてくる。 「あなたは……シグルーンさん……?」 「ああ、ついに目覚めたのですね。あなたはアクセルですか? それとも傑作の方ですか?」

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