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第1825話
「……アクセルに決まっているでしょう。それ以外にあり得ませんよ」
「そうですか……。ではフロックとブリュンヒルデは失敗したのですね……。だからやり方が生温いと、何度も忠告しましたのに……」
どこか冷めた口調で言うシグルーン。全身傷だらけにも関わらず、どこかニヒルな雰囲気が漂っていた。
アクセルは身体を硬くしつつ、シグルーンに言った。
「……何の用でしょうか? 俺はもうヴァルハラに帰りますので、そこをどいてください」
「ヴァルハラ……ですか。そうですね……実験が失敗した以上、これまで通り、あなたはヴァルハラで生活することになるのでしょう……」
「……どういう意味ですか?」
「あなたは――いえ、あなた達は、元々予言の巫女とグロアが造った存在です。予言の巫女の代わりとして生を受けたからには、透ノ国を管理することがあなた達の使命なのです……」
「はぁ……?」
いきなり何を言い出すんだ、このヴァルキリーは。透ノ国を管理しろだなんて、初めて聞いたのだが。
シグルーンが続ける。
「透ノ国は、我々の管理が及ばない特別な場所です。予言の石板以外にも、大切なものはまだまだたくさんあります。そんな場所を、誰も管理しないまま放置しておくわけにはいきません……。予言の巫女は消えてしまいましたので、それを引き継ぐのはあなた達が一番ふさわしい……」
「……。あの……それってつまり、透ノ国の管理を最高傑作に押し付けようとしていたわけですか?」
「押し付けとは人聞きの悪い……。任命と言ってください」
「同じことですよ。結局、自分たちの都合がいいように最高傑作を利用しようとしただけじゃないですか。そんなの、巫女やグロア達がやっていたことと何ら変わらない。俺たちの意思をまるっきり無視した、身勝手極まりない行為です」
あの最高傑作は、普通の個体として生きることを望んでいた。普通の身体をもらって、普通の個体として自由に生きたい、透ノ国に閉じ込められるのは嫌だ――そう言っていた。
だから仮に魂の定着が成功していたとしても、ヴァルキリーの任命には従わなかったと思う。
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