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第1830話

「さ、そろそろ帰ろう。家でピピが待ってる」 「うん……そうだね」  二人同時に泉から出て、当たり前のように並んで家に帰る。  見知った道と景色を見ていたら、少し涙が出そうになった。本当に戻ってこられてよかった……。  ――帰ったら墓を作ってあげないとな……。  最高傑作のことは気の毒だと思わんでもない。でも、残念ながらアクセルにしてあげられることは何もない。せいぜい墓を作って丁重に葬ってあげることくらいだ。 「ぴー!」  家に帰った途端、ベランダからピピがすっ飛んできた。なんだか、ピピに会うのも久しぶりな気がする。 「ただいま、ピピ。心配かけてすまなかったな」 「ぴー」 「お腹空いてないか? 今ご飯作るよ。……兄上はどうする?」 「もちろん食べるよ。食料、あまり残ってないかもしれないけど」  キッチンを確認してみたら、案の定食料はそれほど残っていなかった。一食分くらいならあるけど、翌日の分は確実に足りない。  ――今日は早めの夕食ってことにして、明日の朝にまた買い出しかな。  苦笑しつつ、アクセルは早速キッチンに立った。  残った野菜を切り刻み、干し肉もしっかり刻んで一緒の鍋に投入する。それを水からじっくり煮込み、灰汁を丁寧にとって野菜スープを作った。  その間に小麦粉を水で練り、手で適当な大きさに丸めたり伸ばしたりして、その生地をフライパンで焼いた。本格的なパンには程遠いが、スープと一緒に食べる用のパンならこれで充分だろう。 「ピピ、できたぞ。兄上も一緒に食べよう」  ベランダにあるテーブルに食事を並べ、ピピには鍋ごとスープを出してやり、三人で早めの夕食をとった。  メニュー自体は質素だったので、たくさん食べる兄には物足りないんじゃないかと思ったけれど、兄は特に文句を言うこともなく美味しそうに平らげてくれた。 「食器の片付けは私がやっておくよ」  兄がそう言ってくれたので、アクセルは庭に出て最高傑作の墓を作ることにした。

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