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第1834話

「あの、兄上……」 「…………」 「その……」  何と言えばいいかわからず、アクセルは視線を泳がせた。直接口に出すのは恥ずかしいし、だからといって放っておかれるのは寂しい。入浴前のキスでは全然足りなかったのに。  アクセルは自分の枕を掴み、そろりとベッドから下りた。そして兄のベッドに近づき、小声で尋ねた。 「あの……い、いいでしょうか……?」 「いいって、何が?」 「だから、その……」  兄がこちらを見上げた。青い瞳と目が合った。  それだけのことが今のアクセルには無性に恥ずかしく、自分の顔を抱えていた枕に押し付けた。 「もう……相変わらずお前は、肝心なことがなかなか言えないね。何度も場数踏んでるのに、未だに恥ずかしいの?」 「それは……だって……」 「まあ、ある意味安心するけどね。いつまでも初心で恥ずかしがり屋なのが、お前の特徴だし。変わってなくてよかった」 「っ……」 「さ、おいで」  布団をめくり、中に誘ってくれる兄。  アクセルは隣に枕を置き、そろそろと掛け布団に潜り込んだ。大好きな兄の香りに包まれて、気持ちがふわっと和らいだ。 「兄上……俺、やっぱり兄上のことが好きだ。誰が何と言おうと、この世で一番愛してる。あなたの弟でいられて、俺は本当に幸せなんだ」 「うん、うん……」 「だから……もし俺が本来の俺と全く違う人物になってしまったら、その時は容赦なく殺してくれ。俺以外の人が『兄上の弟』として生きていくのは耐えられないし、あなたの弟という立場は誰にも譲るつもりはないんだ」  そう言ったら、兄は少しだけ目を丸くした。  だがすぐにふっと微笑み、こちらを撫でながらぎゅっと抱き締めてきた。 「安心して。言われなくてもそうするつもりだから。お前以外の誰かがお前の身体で生活するなんて、私だって耐えられない。もちろんできる限り元に戻そうと頑張るけど、どうにもならないとわかった時は、お前を殺して蘇生できないよう身体を火山に投げ入れて、私も一緒に身投げするよ」

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