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第1855話

 その後はキッチンに戻り、兄が捌いた肉の塊を紙に包んで食料庫に保管した。  煮込み途中だった猪の塊肉はそのまま煮続けることにして、別の寸胴鍋を用意しピピ用の野菜スープを作った。  カレー味のスープにしてみたら、ピピもすごく喜んでくれた。 ***  数日後。狩りの引率日がやってきた。 「気をつけてね。何かあったらすぐに呼び鈴使うんだよ?」  家を出る時、何度も兄に念を押された。しかも見回りの時に渡される緊急呼び出し用の鈴を三つも持たされてしまう。  心配なのはわかるけど、こんなに持たされてもさすがに使わないのだが……。 「大丈夫だって。なるべく安全な場所を選んだし、新人と言ってもヴァルハラに招かれるくらいの戦士だろ? 狩りだってそれなりにできるはずだ」 「いや、新人のことはどうでもいいの。お前が間抜けなことをやらかさないか、心配してるんだ。お前の場合、歩いてる途中で獣用の罠にかかるとも限らないからね」  ……強く否定できないところがちょっと辛い。 「だ、大丈夫だよ……。今日は本当に気をつけるから。いざとなったら鈴も使うし、そんなに心配しないでくれ」 「ピピちゃんは? 連れて行かないの?」 「さすがにそれはな……。狩りの引率だって仕事だろ? 仕事場にペットを連れて行くなんて聞いたことがないよ。また怪我をさせちゃったら申し訳ないし」 「そうかい……? でも、そこまで言うならちゃんと無事に帰ってくるんだよ? お兄ちゃん、この間の熊をカレーにして待ってるからね」 「ああ、わかった」  兄に見送られ、アクセルは家を出て集合場所の広場に向かった。  そこには既に三人の戦士が集まっていた。 「よう、あんたも狩りに参加するのか?」  黒髪に赤いメッシュが入った戦士が、陽気に話しかけてくる。 「オレはブラッドだ。今日はよろしくな」 「あ、ああ……よろしく……」 「にしても、引率の上位ランカーはまだかね? もう時間になるんだけど」  と、時間を確認しているブラッド。  ああ、これは初手から勘違いされているパターンだな……と察し、アクセルは苦笑して言った。

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