1859 / 2296

第1859話

 ――それにしても、この山……以前来た時と雰囲気が違うような……?  ピピと散策していた時は、いかにも山歩きしやすそうな静かな山だった。大型の獣も少なかったし、熊がしつこかったこと以外は特段トラブルもなかったように思う。  けれど今は……何というのだろう、ピリッとした空気が漂っているみたいだった。  薄っすら緊張するというか、何となく落ち着かないというか、よからぬものが近づいている感覚がするのだ。  一番似ているのは、スレイプニル(オーディンの愛馬)の縄張りに踏み込んだ時だろうか。あの時はピピが止めてくれたから助かったけど、あのまま深入りしていたら帰って来られなかったかもしれない。それくらい危険な空気が充満していた。  この山がスレイプニルの縄張りだとしたら、一刻も早く新人を連れて帰らないと大変なことになるが……。  ――いや、そんな……まさかな……。  数日前まで何もなかった山が、いきなりスレイプニルの縄張りになるなんてあり得ない。  それにこの辺は、街からも比較的近い山の麓なのだ。そんな場所にスレイプニルがいるなんて考えづらい。  気まぐれに通りかかることはあるかもしれないが、その程度ならたいした被害にならないだろう……多分。  ――いずれにせよ、さっさとドムたちを連れ戻さないとな……。  そして急いで下山する。狩りらしい狩りはできなかったけど、今回は運が悪かったと諦めよう。  それに、あの二人はアクセルの引率じゃ不満だったようだから、日を改めて別の上位ランカーに引率してもらうのがよさそうだ。 「…………」  アクセルは一度足を止め、気配を探るために集中力を高めた。  山や森は気配が掻き消されやすい。だから生き物の足音や息遣い、それらを敏感に察知して居場所を探らなくてはならないのだ。  故に、わずかな音も聞き逃してはならない。集中、集中……。 「……ふっ!」  より感覚を研ぎ澄ますため、アクセルは静かに覚醒した。  狂戦士(バーサーカー)になったことで微かな音がより大きく聞こえ、空気の匂いや肌感覚、第六感までもが鋭利になってくる。

ともだちにシェアしよう!