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第1859話
――それにしても、この山……以前来た時と雰囲気が違うような……?
ピピと散策していた時は、いかにも山歩きしやすそうな静かな山だった。大型の獣も少なかったし、熊がしつこかったこと以外は特段トラブルもなかったように思う。
けれど今は……何というのだろう、ピリッとした空気が漂っているみたいだった。
薄っすら緊張するというか、何となく落ち着かないというか、よからぬものが近づいている感覚がするのだ。
一番似ているのは、スレイプニル(オーディンの愛馬)の縄張りに踏み込んだ時だろうか。あの時はピピが止めてくれたから助かったけど、あのまま深入りしていたら帰って来られなかったかもしれない。それくらい危険な空気が充満していた。
この山がスレイプニルの縄張りだとしたら、一刻も早く新人を連れて帰らないと大変なことになるが……。
――いや、そんな……まさかな……。
数日前まで何もなかった山が、いきなりスレイプニルの縄張りになるなんてあり得ない。
それにこの辺は、街からも比較的近い山の麓なのだ。そんな場所にスレイプニルがいるなんて考えづらい。
気まぐれに通りかかることはあるかもしれないが、その程度ならたいした被害にならないだろう……多分。
――いずれにせよ、さっさとドムたちを連れ戻さないとな……。
そして急いで下山する。狩りらしい狩りはできなかったけど、今回は運が悪かったと諦めよう。
それに、あの二人はアクセルの引率じゃ不満だったようだから、日を改めて別の上位ランカーに引率してもらうのがよさそうだ。
「…………」
アクセルは一度足を止め、気配を探るために集中力を高めた。
山や森は気配が掻き消されやすい。だから生き物の足音や息遣い、それらを敏感に察知して居場所を探らなくてはならないのだ。
故に、わずかな音も聞き逃してはならない。集中、集中……。
「……ふっ!」
より感覚を研ぎ澄ますため、アクセルは静かに覚醒した。
狂戦士 になったことで微かな音がより大きく聞こえ、空気の匂いや肌感覚、第六感までもが鋭利になってくる。
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