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第1879話

「飲んじゃっていいんじゃないか? 酒に罪はないだろ?」 「そうなんだけど……毒とか薬とか、変なもの入ってないよね?」 「……そこまで疑うのか? いくら何でもそんなことはしないと思うが」 「わからないでしょ。お前が能天気な分、私が疑り深くないと」  そう言って兄は小皿に酒を少し出し、舐めるように味見し始めた。  その理屈でいうと、毒が入ってた場合兄が大変なことになるんじゃ……と慌てたが、 「うーん……大丈夫、っぽい? 味は普通の蜜酒みたいだ」  と、判断していたのでちょっと安心した。毒の酒じゃなくてよかった。 「でも心配だから、これは私が全部処理しちゃうね。お前は私が買っておいた秘蔵のお酒を飲みなさい」 「ああ……まあ、いいけど……」  その後は、先日の狩りについてのレポートをまとめた。  一応提出用のテンプレートがあるのだが、自分が死んだ後のことはよくわからなかったので、とりあえず書けるところだけ書いておいた。 「そのレポートも、意味があるかどうかわからないけどねぇ……」  と、兄が夕食を作りながら言う。夕食は作りすぎた熊カレーのアレンジ料理だ。 「だいたい、提出したところであのヴァルキリーが見ているとは思えないし。裏紙にされて終わりじゃない?」 「裏紙って……。いくら何でも少しは目を通すだろ。何のために提出させてるかわからないじゃないか」 「自分たちのスケジュール通りに引率してくれたか、確認したいだけでしょ。多分内容はどうでもいいんだよ。だから狩りに組み込む新人も適当だし、狩り場でのトラブルにも干渉しないんだ。……それでもラグナロク前は、危険な大型魔獣が出たら上位ランカーが召集されていたものだったけどね」 「え、そうなのか?」 「そうだよ。お前の始めての狩りの時も、ランゴバルトが誘き出した大猪のために召集かけられたんだから」 「そ、そうだったのか……」  なるほど、あの時タイミングよく兄たちが来てくれたのは、ヴァルキリーの召集があったからなのか。兄の第六感が働いた故のことだと思っていたけれど、実際はきちんと召集されていたようだ。

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