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第1894話

 兄はどこかに出掛けてしまったのか、リビングにはいなかった。代わりにテーブルの上にラップされた朝食が置かれている。ベーコンエッグと小さなサラダだ。 「ただいまー」  とりあえずコーヒーでも淹れよう……とキッチンに入ったところで、兄が帰ってきた。  市場でがっつり買い物してきたらしく、複数の買い物籠が食料でいっぱいになっている。 「お、おかえり……。なんかものすごい量だな?」 「いやぁ、なんか美味しそうなお肉や卵がいっぱい売ってたからつい、ね。ホラ見てよこれ。ブランドの卵がバラ売りされてたの。黄身の色がそれぞれ違うんだって。後で食べ比べしてみようね」 「あ、ああ……」 「それよりお前、起きたなら顔洗って着替えておいで。テーブルの用意しとくから」  そう言われたので、ひとまず洗面所で顔を洗い、普段着に着替えた。  気になって洗濯カゴを覗いたら、意外なことに何も入っていなかった。もしかしたら、買い物前に魔法のドラムに洗濯に行ったのかもしれない。  ――回収はまだなのかな。だったら俺が取りに行くか……。  昨夜、ベッドを汚したのは自分も同罪である。  アクセルはキッチンに戻り、食料をしまいながら昼食を作っている兄に声をかけた。 「兄上、俺今から洗濯物回収に行ってくる」 「おや、そうかい? 結構な量だけど一人で平気? マットレスもあるんだよ?」 「あ、ああ……台車を持って行くから大丈夫だ」  武器倉庫の脇に立てかけてある台車を引っ張り、ゴロゴロと魔法のドラムの前まで運ぶ。  兄が使っていたドラムは大小含めて三つもあり、普段着やベッドのシーツ、枕からマットレスまで全部洗濯していたようだった。つくづく台車を持ってきてよかったと思った。 「おや、弟くんではありませんか。これまた随分たくさんの洗濯物ですね」  台車に洗いたての洗濯物を積んでいると、ユーベルが半ば呆れた顔で声をかけてきた。  相変わらず彼はファッションセンス抜群で、今日は上質なジャケットにリボンタイ、スラッとしたパンツと鎖のようなベルトを装着している。

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