1894 / 2296
第1894話
兄はどこかに出掛けてしまったのか、リビングにはいなかった。代わりにテーブルの上にラップされた朝食が置かれている。ベーコンエッグと小さなサラダだ。
「ただいまー」
とりあえずコーヒーでも淹れよう……とキッチンに入ったところで、兄が帰ってきた。
市場でがっつり買い物してきたらしく、複数の買い物籠が食料でいっぱいになっている。
「お、おかえり……。なんかものすごい量だな?」
「いやぁ、なんか美味しそうなお肉や卵がいっぱい売ってたからつい、ね。ホラ見てよこれ。ブランドの卵がバラ売りされてたの。黄身の色がそれぞれ違うんだって。後で食べ比べしてみようね」
「あ、ああ……」
「それよりお前、起きたなら顔洗って着替えておいで。テーブルの用意しとくから」
そう言われたので、ひとまず洗面所で顔を洗い、普段着に着替えた。
気になって洗濯カゴを覗いたら、意外なことに何も入っていなかった。もしかしたら、買い物前に魔法のドラムに洗濯に行ったのかもしれない。
――回収はまだなのかな。だったら俺が取りに行くか……。
昨夜、ベッドを汚したのは自分も同罪である。
アクセルはキッチンに戻り、食料をしまいながら昼食を作っている兄に声をかけた。
「兄上、俺今から洗濯物回収に行ってくる」
「おや、そうかい? 結構な量だけど一人で平気? マットレスもあるんだよ?」
「あ、ああ……台車を持って行くから大丈夫だ」
武器倉庫の脇に立てかけてある台車を引っ張り、ゴロゴロと魔法のドラムの前まで運ぶ。
兄が使っていたドラムは大小含めて三つもあり、普段着やベッドのシーツ、枕からマットレスまで全部洗濯していたようだった。つくづく台車を持ってきてよかったと思った。
「おや、弟くんではありませんか。これまた随分たくさんの洗濯物ですね」
台車に洗いたての洗濯物を積んでいると、ユーベルが半ば呆れた顔で声をかけてきた。
相変わらず彼はファッションセンス抜群で、今日は上質なジャケットにリボンタイ、スラッとしたパンツと鎖のようなベルトを装着している。
ともだちにシェアしよう!

