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第1902話
「そもそも透ノ国ってすげぇ行きにくいだろ。時間の流れも違うみたいだし……そんなところにわざわざ行って、整備を手伝ってくれる下位ランカーなんてそう多くないぞ? テーマパーク化した後ならいいが、それまでが大変な気がするぜ」
「そこはジークの人望で何とかならない? 真面目にお手伝いしてくれる人、集めてきてよ」
「簡単に言うなよ。何の見返りもなしに手伝ってくれるヤツがいるわけないだろ。募集するなら、何かお礼を用意してからにしてくれ」
「お礼ねぇ……。何がいいだろう? 下位ランカーが喜ぶことなんて、あまり思い浮かばないなぁ」
などと、兄がワイングラスを揺らしながらぐさりとフォークで唐揚げを突き刺す。
「あ、うちの弟がご飯をケータリングしてくれるってどうだろ。ヴァルハラの戦士は食欲旺盛だし、作りたての美味しいご飯が出てきたらみんな喜ぶと思うんだよね」
「え!? 俺がやるのか?」
いきなり話が飛び火して、アクセルはぎょっと目を剥いた。唐揚げを出し終えたので、そろそろビーフシチューでも出すか……と思っていたところだった。
「決定じゃないけど、悪くない案じゃないかな。お前のご飯美味しいし、宴の食事当番になった時はみんな喜んでたって言うじゃない?」
「それは知らないけど」
「ヴァルハラの戦士なんて、衣食住が満たされた状態で死合いに没頭できればだいたいは満足するんだ。その中でも食事はそれなりに重要視されている。私もお手伝いするから、一緒にケータリングやらない?」
「……急に言われても困るんで、そういう話はまた後にしてくれ」
それだけ言って、アクセルはキッチンに逃げた。
――四人の上位ランカーの飯炊きをするだけでも大変なのに、ケータリングなんて何人前の食事を用意するかわからないじゃないか……。
まったく、思いつきで勝手なことを言わないで欲しい。「食堂のおばちゃん」じゃあるまいし、食事の準備ばかりしていたら鍛錬もできずに一日が終わってしまう。せっかくイイ感じのところまでランクが上がって来たのに、そんなことで実力を落としたくない。
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