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第1906話

 その後、緩くストレッチをして筋肉を刺激し、模造刀で何回か素振りを行う。  いつも通り柱の間は二センチでやっていたのだが、模造刀が何度か柱にぶつかってしまって地味にショックを受けた。やはり一日でも鍛錬を欠かすと、感覚が鈍ってしまうようだ。今後はほんの五分であっても、素振りだけはやった方がいいかもしれない。 「ぴー」  隣にいたピピが、ペシペシこちらを叩いて何かを訴えてきた。  何かと思って手を止めたら、垣根からベランダを覗き込んでいる男がいた。  一瞬不審者かと思ったが、よく見たらその男には見覚えがあった。 「……ドム?」 「ゲッ! 見つかった……!」  逃げようとするドムを、急いで追いかけてとっ捕まえる。彼を自由にさせたら、今度は何をされるかわかったものじゃない。 「何しに来たんだ? また変なこと企んでるんじゃないだろうな?」 「違う違う! あんたに謝りに来たんだよ!」 「……謝りに?」 「そうだ! よく覚えてねぇけど、あんたの兄貴にメタメタのギタギタにされて棺送りになって……! ちゃんと謝らなかったら、またあんたの兄貴に殺されるって聞いて……! そんで何とかあんたの家まで来たんだよ……! でも正面からは入れねぇし、あんたの兄貴は怖いしで、なかなか踏み込めなかったんだ! 信じてくれ!」 「そ、そうなのか……」  まあ兄上は怒らせると俺でも怖いからな……と内心同情していると、ドムはこちらの様子を窺うように言った。 「……で、あんたはもう何ともないのか?」 「え? ああ……それはもちろん……」 「じゃあ何の問題ないよな! あの時は悪かったな!」 「あ……ああ、うん……」 「んじゃ、オレは帰るぜ! あばよ!」  そう言ってドムは、今度こそ逃げるように走って行ってしまった。  ――……あれって謝罪に入るのか? なんか適当にごまかされたような気が……。  何だか微妙な気分だが、深追いするのも面倒である。  まあいいや……と思い直し、アクセルはベランダに戻った。

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