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第1908話
朝食をとった後、急いで市場に走り、適当に食材を買い込む。
早速弁当を作るか……と食パンを切ろうとしたのだが、唐突に兄が「お弁当はおにぎりと豚汁がいいな」などと言い出し、気まぐれなわがままにげっそりしてしまった。
「……今から米を炊けって言うのか? 豚汁だって、一から作ったらそれなりに時間がかかるんだが」
「別にいいじゃない。急いでるわけじゃないんだから」
「探索にどれだけ時間がかかるかわからないのに、こんなのんびりしてたら今日中に帰って来られないだろ」
「そういうのは、今日中に帰って来られるように切り上げるんだよ。無闇に深入りしないためのポイントさ」
「はあ」
「お前のお弁当、楽しみにしてるね♪」
……そんなわけで、急遽土鍋で米を炊くことになってしまった。仕方がないので豚汁も並行して作った。
本当は簡単なサンドイッチにするつもりだったのに、とんだタイムロスじゃないか。
ようやくお弁当が完成して身支度をして戸締りする頃には、朝の十時を回っていた。
――ったくもう、いい加減にしてくれよな……。
昨日から都合のいい飯炊きみたいに扱われて、正直あまり面白くはない。
兄がわがままを言ってくれるのは喜ばしいことなのだが、毎回こうやって振り回されていては自分のことすらできなくなってしまう。今朝の素振りで少し感覚が鈍っててショックを受けたばかりなのに。
「何だかご機嫌ナナメだねぇ?」
アクセルの心情を知ってか知らずか、兄が顔を覗き込んできた。
「そんなに一人で行きたかったの? 次からは一人で行っていいってば」
「……いや、それはもういいんだ」
「じゃあ何? やっぱりドムに何かされたんじゃ……」
「もういいから。そんなことより、早く行こう」
早足で世界樹 を通り、玉鋼の採掘場に向かう。
採掘場は相変わらず砂と土だらけで、いくつかの穴から奥に進めるようになっていた。
――入口は五つか……。
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