1909 / 2296
第1909話
以前来た時は入口はひとつしかなかったが、採掘に際して増やしたのかもしれない。
「さーて、どの入口に入ろうか?」
兄が意見を窺ってくる。
少し迷ったが、せっかくなので今まで入ったことのない西側の入口を選ぶことにした。
兄も一緒に入ろうとしてきたが、アクセルはビシッと弁当箱を目の前に突き出して言った。
「兄上は別の入口から入ってくれ。この弁当は好きな時に食べてくれていい」
「……は? 何それ? というか、ここまで来て何でバラバラに行動しようとするのさ?」
「いいだろ、別に。浅いところにはガーディアンは出てこないし、ある一定のところまで潜ればきっと合流できる。入口は違っても、行き着くところは同じなんだし」
「そうは言ってもねぇ……」
「悪いとは思ってる。でも今は少し一人になりたい気分なんだ。兄上と喧嘩もしたくないから、頭を冷やす時間をくれ。万が一中で合流できなかった場合は、時間になったらここまで帰ってくる。それでいいだろ」
「あー……うん……」
「それじゃ」
弁当箱を押し付け、アクセルは一人で洞窟に入っていった。
しばらくはガーディアンに遭遇せずに済んだが、玉鋼もあまり見つからなかった。
玉鋼は戦士の武器強化や修復によく使うので、浅いところにある素材は採り尽くされている。
だからある程度深いところまで潜る必要があるのだが、深いところに潜るとそれだけガーディアンとの遭遇率も上がってしまうので、未熟な下位ランカーはなかなか自力で採掘に行けないのが現状だ。
そういう意味でも、報酬に玉鋼を用意するのはいい考えだと思う。……きちんと持って帰れればの話だが。
「……はぁ」
それにしても、先程からイライラしてしょうがない。
危うく兄に八つ当たりしそうになったから強引に一人にさせてもらったけど、大人になっても自分は精神的に未熟だなと痛感させられる。
何かあるとすぐに動揺してしまうし、落ち込んでしまうのも自分の悪い癖だ。
ともだちにシェアしよう!

