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第1921話

「…………」  視線を落とし、アクセルはとぼとぼと玄関からリビングに引き返した。  非常に気になるところだが、ここは我慢して兄を待っていよう。これだけ「浮気はしないでくれ」と言い続けているのだから、今更アクセルを怒らせるリスクを冒すこともないはずだ……多分。  気を紛らわせるように、アクセルはリビングで腹筋・背筋・腕立て伏せ、それに全身の筋肉を解すストレッチを行った。  素振りの調子はイマイチだったけど、筋肉はさほど衰えていなかったので少し安心した。 「ただいまー」  さて、もう一セット……と思っていたら、兄が帰って来た。 「あ、兄上……もう帰って来たのか?」 「もうって何? 夕飯食べるだけなんだから、そんなに時間かかるわけないじゃない」 「えっ……? あ……そ、そうだよな……」  その反応を見たら、兄を疑っていた自分が急に恥ずかしくなってきた。つくづく、宴会場に乗り込まなくてよかったと思った。  ――ごめん、兄上……。  心の中で大いに反省していると、兄がソファーに座ってこちらを見てきた。 「筋トレ中だったの? 相変わらず真面目だねぇ」 「あ、ああ……俺は地道に鍛錬しないと、すぐに実力が落ちちゃうから……」 「偉いなぁ。……あ、そうそう。久しぶりにイノシシのシチュー食べてきたけどさ、やっぱりお前が作るシチューの方が美味しかったよ。何というか、味の深みっていうの? そういうのが全然違うんだよね」 「そうなのか」 「お前、宴の食事当番になることはもうないの? それとも、もう飯炊きは嫌?」 「あ、いや……仕事ならちゃんとやるよ。最近は食事当番が回ってこないだけだ」  そもそも食事当番みたいな仕事は下位ランカーに回されることが多いので、自分にはもう回ってこないのではないかと思う。  とりあえずもう一度腕立て伏せを……と、床に手をついて何回か行っていたら、 「ぐえっ……!」  唐突に背中に兄が座ってきた。  結構な重みがあったので、危うく潰れそうになった。

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