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第1923話

「ああでも、そろそろ打ち止めにしようかな。あまり一ヵ所に負荷をかけすぎてもよくないしね」  そう言って、結局兄は五十回で一時中断した。  ぺたんと床に腹ばいになり、両腕を左右に広げて大の字になっている。使った筋肉を弛緩させているのだろう。  ――やっぱり兄上はすごいな……。  戦士としての実力も、もともとの腕力も自分とは桁違いである。  アクセルもそれなりに努力してきたはずだが、まだ全然追い付いていないことを痛感した。兄と死合いたいとずっと願い続けているものの、今の状態ではまたボコボコに返り討ちにされてしまう気がした。 「ねえ、そろそろどいてくれない?」  床に寝そべっている兄が声をかけてくる。  このまま退くのは少し惜しくなってきて、アクセルは逆にぎゅっと兄を抱き締めた。 「……嫌だ」 「ええ? 何で?」 「何でもだ」 「……何それ? おかしな子だねぇ」  そう言いつつも、兄はしばらくされるがままになっていた。  どれくらいそうしていたのかわからないが、突然兄が動き出してアクセルはゴロンと床に振り落とされてしまった。 「おわっ……」 「はい、もうおしまい。そろそろお風呂入って寝る準備しよ」 「う……うん……」 「風呂上がりのレモン水、よろしくね」  兄が先に風呂に入ってしまったので、仕方なくアクセルはキッチンでハチミツ入りレモン水を用意した。  スムーズに風呂に入れるよう脱衣所に自分の分のタオルと就寝着を置いてきたのだが、扉越しに聞こえるシャワーの音を聞いていたら何やら変な感情が湧いて来てしまった。  ――やばい、何かムズムズする……。  急いで脱衣所から逃げ、水をがぶ飲みする。  直前まで兄を抱き締めていたせいか、あのしっかりした筋肉と大好きな人の香りがだんだん恋しくなってきた。  そういえば、マットレスが汚れるから今後はなるべく浴室でやろうって言ったんだった。  いやでも、さすがに二日前にやらかしたばかりだし、それで明日も寝坊したら鍛錬どころじゃなくなる。ここは我慢しないと……。

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