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第1943話

 闘技場はひどい有様だった。  火球がぶつかった場所は大きく抉れ、観客席までボロボロになっている。  もはや半分爆心地のようで、見ていた観客にも複数の死傷者が出ているみたいだった。 「アクセル、怪我はないかい?」  兄がこちらを気遣ってくる。兄もこれといった怪我はしていないようだった。 「あ、ああ……俺は大丈夫だけど……」  アクセルがもう一度闘技場を見下ろそうとしたところで、上空からヴァルキリーのアナウンスが聞こえてきた。 『死合い終了! 勝者、ドラコ! 遺体回収班は遺体を回収してください』 「はぁッ……!?」  驚愕のあまり、思わず口をあんぐり開けてしまう。いくら何でも、こんな死合いはひどすぎるだろう。 「ちょっと待て! こんなの反則だろ! 何で今の死合いがOK判定されてるんだよ!」  天に向かって怒鳴ったが、周りの怒号に掻き消されてしまう。  生き残った観客も同じ不満を抱いたようで、ブーイングの嵐の中、腹いせに瓦礫の破片を投げつけている者もいた。  未だに怒りは収まらなかったが、兄に肩を叩かれ少し冷静になる。 「ここで怒鳴っても仕方ないよ。それよりアロイスくんはどこ行ったんだろう?」 「ハッ……!? そうだ、アロイスは……!?」  慌てて闘技場に下り、地面が抉れている場所からアロイスを捜す。  吹っ飛ばされた大剣は残っていたものの、アロイスの姿はどこにもなかった。いくら一発でやられたからって、死体すら残らないなんてことあるのか……? 「あっ……」  見つけた。瓦礫の隙間からアロイスの腕が覗いていた。  アクセルは急いで瓦礫を取り除き、アロイスを救出しようとした。兄も手を貸してくれた。  だが……。 「は……?」  そこにあったのは、アロイスの腕だけだった。  鎧に包まれた腕――肘から先の部分だけが残っており、胴体や下半身、頭部が一切ない。 「え、ちょ……嘘だろ……?」  慌てて他の場所も捜してみたが、それらしいものは見つからなかった。  唯一鎧の溶け残りと思しき破片は発見できたものの、それ以外の身体は痕跡すらなかった。遺体回収班総出でくまなく捜したのに、本当に何も見つからなかった。

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