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第1945話

 その言い草にさすがに腹が立ち、反射的に拳を振り上げたのだが、 「よしなさい」  後ろから兄に腕を掴まれ、少し冷静になった。  渋々拳を下ろす傍ら、兄がドラコにこう言い返してくれる。 「きみ、ドラ……なんだっけ? まあ名前はどうでもいいや。所詮は与えられた魔法でイキっているだけの小物だし」 「はっ……?」 「チート級の魔法で無双していい気になるのは勝手だけど、あまり上位ランカーを舐めない方がいいよ。自分がやったことは、よくも悪くも自分に返ってくるものだ。きみたち魔剣士がやったこと、近いうちに全部返ってくるだろうからそのつもりでいなさいね」  行こうか、と促し、こちらの背中を押してくる兄。  やはりランキング三位の戦士のお説教は凄みがあり、聞いているアクセルも少しだけ溜飲が下げられた。 「な……何だよ! 勝ったのは僕なのに、何で僕が悪いみたいに言われなきゃいけないんだよ! ヴァルハラは勝った方が正義のはずだろ!」  だがドラコは納得できていないらしく、駄々をこねるように鞘に入った剣を振り回してくる。  さすがにこの振る舞いはぶん殴ってもいいんじゃないかと拳を振り上げようとしたら、 「ギャッ……!」  それより早く兄が太刀を抜き、ドラコの腕を剣ごと切り落とした。  さすがの早業で、斬られたドラコ本人も何が起こったかすぐには理解できていないようだった。 「ぎ、ぎゃあああ! 僕の腕が! ああああ!」 「やかましい」 「ぐぎゃっ!」  今度はザクッと肩を突かれ、ドラコがみっともなく尻餅をつく。  兄は太刀を向けながら、冷たく彼を見下ろした。 「腕一本落とされたくらいで、ぎゃあぎゃあ喚くんじゃない。そんな怪我、ヴァルハラでは日常茶飯事だよ。魔剣士はフィジカルもメンタルも弱いのかい?」 「う、う……」 「きみの言う通り、ヴァルハラでは勝った方が正義だ。ただし、それは死合いの間だけ。死合いが終わってしまったら、正義は上位ランカーのものになる。今月のランクはまだ更新されてないから、きみはランク圏外の新人のはずだ。そんなヤツが上位ランカーに生意気な口を利いたら……どうなるかわかるよね?」 「ひっ……!」

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