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第1953話

 お願いではなく、とうとう上から目線で命令し始めた。  これには後ろで聞いていたホズがブチ切れてしまい、サッと武器を抜いてヴァルキリーの前に躍り出た。  ヴァルキリーの首筋に剣を当て、低い声で言い返している。 「いい加減にしろ、ヴァルキリー。一体誰に向かって物を言っているんだ。お前らのような有象無象の娘どもに、兄上の行動を制限する権利はない」 「ひっ……」 「だいたい、これから客人がくるというのに突然訪ねてきた挙句、説教めいた口を利くとは何事だ? ヴァルキリーどもはいつからそんなに偉くなった? 本来なら門前払いされるところを、会って話を聞いてやっただけでもありがたいと思えよ」 「で、ですがこのままでは……」 「どうせ自分たちじゃヴァルハラを管理しきれなくなって、手当たり次第に神々に助力を乞うているだけだろう? それならそれとして、礼儀というものがあるだろうが。兄上に物を頼みたいなら、まずは最低限の礼儀を学んでから来い。これだからヴァルキリーだけ『出来損ないの娘たち』と嘲笑されるんだ」 「っ……!」  痛いところを突かれたらしく、ヴァルキリーはかあっと顔を赤くした。  怒っているのか恥ずかしいのか、わなわなと身体を震わせている。 「いいよ、ホズ。彼女たちはまだ幼いんだ。礼儀も作法も知らない子供みたいなものだよ。そう目くじらを立てることもないさ」  バルドルがしれっと煽るような言葉を吐く。  口調は穏やかだが彼女たちの振る舞いには何か思うところがあったらしく、珍しく軽い嫌味のようなことを言っていた。 「そう言えば、きみの名前まだ聞いていなかったね? 普通は最初に名乗るものだけど、名乗ってくれないから聞きそびれちゃった。せっかくだから教えてくれないかな?」 「っ……も、もういいですっ! とにかく、我々の意向は伝えましたから! ちゃんとその通りにしてくださいねっ!」  若いヴァルキリーは顔を赤くしたまま、足音も荒くその場を立ち去ってしまった。負け惜しみの捨て台詞にすらなっていなくて、アクセルはやれやれと額に手を当てた。

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