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第1956話
唐突にそんなことを要求され、アクセルはぽかんと口を開けた。魔法の痕跡とは何のことだ?
「ほら……あるでしょう? 魔剣士が魔法で壊した場所とか、殺しちゃった人とか。本当は魔剣士の武器が一番いいけど、そうもいかないだろうから」
「ば、場所ですか……。あの、それはスタジアムの瓦礫とかでいいんですか?」
「悪くはないね。でも痕跡が強く残ってる方がより早く見つけやすいよ」
「だったら、魔剣士にやられて死んじゃった人の一部を持って来れば一番確実ですかね?」
横から兄が恐ろしいことを口にした。
ぎょっとしてアクセルが兄を見ると、バルドルがやや苦笑して頷いた。
「うん、まあ……そうだね。瓦礫よりも数倍確実だと思う」
「わかりました。すぐに持ってきます」
「え……ちょ、ちょっと待ってくれ兄上!」
何やら嫌な予感がして、アクセルは慌てて兄に追い縋った。
「兄上、まさかアロイスの身体を持ってくるつもりじゃないだろうな?」
「え、そうだけど。それが一番確実なんでしょ?」
「だ、だめだよ! アロイスは今蘇生中なんだ。途中で棺の蓋を開けるなんてあり得ない」
「じゃあ魔剣士の死合いをまた見に行って、消し炭になった戦士の身体の一部を盗んでくるの? それやってること同じじゃない?」
「う……」
そう言われ、アクセルは言葉に詰まった。
確かにやってることは同じだし、アロイスはダメで他の戦士ならOKというのもなんか違う気がする。情のありなしで、OKかダメかを判断してはいけない。
とはいえ、現在蘇生中のアロイスの棺を開けるのは、例え兄でも許せなかった。今ここで棺を開けたら、アロイスは二度と復活できないような予感がしたのだ。
「じゃ、じゃあ魔剣士の武器にしないか? バルドル様は武器が一番いいって言ってたし、その方が確実だろ?」
「……お前、思い付きだけで言ってない? 武器なんてどうやって持ってくるのさ? いくら魔剣士でも、自分の武器を手放す真似はしないよ。それがなくなったら、無双できなくなるんだし」
「うう……」
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