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第1958話

「それはそれとして、お茶もちゃんと飲んでいってね。せっかくお菓子も用意したんだから、お腹いっぱいになってから帰るんだよ」  そう言われてしまったので、仕方なくアクセルは席に着いた。フレインも席に戻ってきた。  それからしばらくお茶とお菓子を食べて談笑していたのだが、何となく気まずくてあまり落ち着かなかった。 「あの……兄上……」  バルドルの屋敷を離れてすぐ、アクセルは恐る恐る兄に話しかけた。 「その……さっきは、ごめん……。言い過ぎた……」 「…………」 「兄上が俺やピピのことを思ってくれているのはわかってたんだ……。でも『友人一人くらい腹を括れ』って言われたら、なんかカーッとなっちゃって……」 「…………」 「……大嫌いとか言って、すみませんでした……」  兄が世界樹(ユグドラシル)の前に立つ。ここを通れば、ヴァルハラに帰れるはずだ。 「……お前のことだから、怒るだろうとは思ってたよ」 「えっ……?」 「お友達を見捨てられないのがお前のいいところだからね。ヴァルハラに来て何年も経つのに、ずっとお人好しでいられるのもたいしたものだ」 「う……それ、褒めてない……よな……?」 「いや、稀有な才能だよ。ヴァルハラでの生活が長いと、私みたいに冷酷になりがちだからね。自分の周りさえよければ、他の人はどうでもいいって思っちゃう。いつまでも赤の他人に優しくできるのは、お前の長所なんだろう」 「兄上……」 「ただ、ひとつだけ覚えておいてね。私の中の優先順位は、一にお前、二に私で、友人・知人はずーっと下なんだ。家族最優先だから、時には友人を見捨てることもある。例えば『アクセルの側を離れないとジークが死ぬ』みたいな条件になった時は、私は躊躇いなくジークを見捨てるよ」 「…………」 「お前はそれを『冷たい』というかもしれない。でも冷酷になることでお前を守れるなら、私はそれでいいと思ってるんだ。だからこれからも私の優先順位は変わらないし、冷酷な振る舞いをすることもあると思う。それだけは、頭の片隅に置いておくんだよ」

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