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第1966話

 言葉を失っているイーサンを尻目に、兄がひょいとこちらを背負ってくれる。 「さ、家に帰ろうか。まずはその痺れを取らないとね」  魔剣士たちの死体を放置し、悠々とその場を離れる兄。  一応、つけられないように少しだけ回り道して帰った。 「あ……」  兄上……と呼びかけようとしたのに、声が出なかった。どうやら声帯にまで痺れが広がってしまい、上手く声が出せないようだ。 「もう……一人で無茶するからだよ。魔剣士たちにカチコミに行きたいなら、私にも声かけてくれればいいのに」 「う……」 「でも、お前が無事でよかった。とっておきの収穫もあったし、結果オーライかな」 「……!」  兄が微笑みつつ、イーサンの持っていた武器を見せつけてくる。先程イーサンの腕を斬り落としたついでにぶんどったものだ。 「魔剣士の武器が一番材料に向いているんでしょ? これ持ってバルドル様のところに行けば、万事解決だよね」 「あ、あ……」  アクセルはこくこくと頷いた。  さすがに兄は、ブチ切れて暴れても肝心なことはしっかり覚えているようだった。自分なんて頭に血が上ってしまい、武器を持って帰ることなんてすっかり忘れていたのに。  ――ランクが上がっても、俺はまだまだ未熟だな……。  家に戻り、兄に手伝ってもらいながら脱衣所で服を脱ぐ。そして浴室に入った。  兄はこちらの身体まで丁寧に洗おうとしてくれたけど、それは丁重に断った。時間がかかっても、血を洗い流すのは自分でやりたかったのだ。 「それ、より……兄上、は武器を、バルドル様の、ところ……に……」 「ああ、そうだね。じゃあこれ、今から届けに行ってくるよ。すぐ戻ってくるから、お前は家で休んでいなさいね」  そう言って兄は、サッと家を出て行った。痺れてさえいなければ自分も一緒に行きたかったのに、残念だ。 「……はあ……」  シャワーコックを捻り、頭から熱いお湯を浴びる。結構な血を浴びていたらしく、水が血の色に染まって流れていった。この分じゃ服も血塗れになっているだろう。あとでじっくり洗濯しなくては。

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