1970 / 2016

第1970話

 ――魔法のドラムって、めちゃくちゃ便利だったんだな……。  今更ながら実感したが、さすがに今はドラムを使うわけにはいかない。ただでさえ泉・棺でオーディンの魔法を借りまくっているのに、洗濯ごときで力を借りるのはいくら何でも非常識だ。  もういっそのこと汚れた服は廃棄して新しいものを仕立て直そうかな……と考えつつ、アクセルはキッチンの食料庫を覗いた。  兄が喜びそうな食材はあまりなくて、にんじんやジャガイモ、小麦粉、あとは熊の干し肉が少し……という感じだった。  これはと思って試しに市場に行ってみたのだが、案の定市場も緊急閉鎖されており、食材を補充することができなかった。まあ当然と言えば当然か。  ――てことは、しばらく山歩きして肉や山菜をとって来ないといけないのか……。それはそれでちょっと大変だな……。  改めて、今までのヴァルハラがものすごく快適だったことを思い知る。  食料が足りなくなれば市場に行けば何とかなるし、洗濯は魔法のドラムでOK。トレーニング場も充実しているし、怪我や病気に悩まされることもなく、半永久的に生きていける。見た目が老けることもない。  娯楽はやや少なめだが、それでも図書館や宴会場、非公式だが娼館もある。こんな幸せな場所は他にない。文字通り、正真正銘の天国だろう。  それなのに魔剣士たちのせいで環境がめちゃくちゃになり、罪もない戦士がたくさん犠牲になった。しかも、その元凶であるヴァルキリーたちはひたすら責任逃れをした挙句、尻拭いはこちらに全て丸投げ状態である。  ――やっぱり、今回ばかりは絶対に許せない。  こちらの生活をめちゃくちゃにしたくせに、何のお咎めもなしに逃げ回るなんてどう考えても理不尽だ。おかしい。  今までさんざんトラブルを起こしてきてくれたが、さすがにもう看過できる段階を過ぎているだろう。  兄やその他の上位ランカーと相談して、本格的に革命を起こしてやった方がいいかもしれない。これ以上ヴァルキリーたちに好き放題させてたまるか。

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