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第1986話

 そしてチラリと目配せした後、ゆっくりと向きを変えてのしのし歩き始めた。 「ええと……あれ、ついて来いって言ってます?」 「そうかもしれんな。とりあえず様子を見てみるか」  一定の距離を保ちつつ、その亀について行くことにした。  亀はゆっくりとしたスピードで洞窟を歩き、大樹のある最深部に戻った。  そして泉の縁まで来たかと思うと、躊躇うことなくザブンと泉に入っていった。 「えっ……!? ちょ、大丈夫なのか!?」 「グァ」  そのまま溶けてしまうかと思いきや、亀は平気な顔をして水面から顔を出してきた。むしろ久しぶりの水浴びで気持ちよさそうな様子だった。 「……なんか大丈夫そうですね」 「ますますよくわからん生体だな。まあ溶けないならよかったが」  亀の甲羅は水面の上に出ている。この状態ならいい足場になってくれそうだ。  アクセルは膝を折り、水面の亀に話しかけた。 「あの、俺たちあそこの大樹まで行きたいんだ。もしよければ背中に乗せてくれないかな……?」 「…………」  亀は水中でくるりと向きを変え、甲羅を差し出すように泉の縁に横づけしてくれた。「乗ってもいいよ」と言ってくれているのか。 「あ……ありがとう! すっごく助かるよ」  礼を言いつつ、亀の背中に乗り込む。ホズと一緒に乗り込んでも沈むことなく、どっしりと安定した乗り心地だった。さすがの大亀といったところか。 「グァ」  亀はすいすいと泳いで一気に向こう岸まで運んでくれた。地面を歩くより余程速かった。  岸に横づけしてくれたので、アクセルたちは無事大樹のある丘まで辿り着くことができた。 「ありがとう、本当に助かった。帰りもよろしく頼……」  そう言いかけたら、亀も一緒にザバッと泉から上がってきた。はずみで泉の水が足元に降りかかり、ブーツが少し溶けてしまった。  何をするんだろう……と見守っていたところ、亀は大樹の側までのしのし歩き、キラキラ輝いている幹に噛みつき始めた。 「うわぁ! いきなり何してるんだ!?」 「見事に食ってるな……」

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