1986 / 2190
第1986話
そしてチラリと目配せした後、ゆっくりと向きを変えてのしのし歩き始めた。
「ええと……あれ、ついて来いって言ってます?」
「そうかもしれんな。とりあえず様子を見てみるか」
一定の距離を保ちつつ、その亀について行くことにした。
亀はゆっくりとしたスピードで洞窟を歩き、大樹のある最深部に戻った。
そして泉の縁まで来たかと思うと、躊躇うことなくザブンと泉に入っていった。
「えっ……!? ちょ、大丈夫なのか!?」
「グァ」
そのまま溶けてしまうかと思いきや、亀は平気な顔をして水面から顔を出してきた。むしろ久しぶりの水浴びで気持ちよさそうな様子だった。
「……なんか大丈夫そうですね」
「ますますよくわからん生体だな。まあ溶けないならよかったが」
亀の甲羅は水面の上に出ている。この状態ならいい足場になってくれそうだ。
アクセルは膝を折り、水面の亀に話しかけた。
「あの、俺たちあそこの大樹まで行きたいんだ。もしよければ背中に乗せてくれないかな……?」
「…………」
亀は水中でくるりと向きを変え、甲羅を差し出すように泉の縁に横づけしてくれた。「乗ってもいいよ」と言ってくれているのか。
「あ……ありがとう! すっごく助かるよ」
礼を言いつつ、亀の背中に乗り込む。ホズと一緒に乗り込んでも沈むことなく、どっしりと安定した乗り心地だった。さすがの大亀といったところか。
「グァ」
亀はすいすいと泳いで一気に向こう岸まで運んでくれた。地面を歩くより余程速かった。
岸に横づけしてくれたので、アクセルたちは無事大樹のある丘まで辿り着くことができた。
「ありがとう、本当に助かった。帰りもよろしく頼……」
そう言いかけたら、亀も一緒にザバッと泉から上がってきた。はずみで泉の水が足元に降りかかり、ブーツが少し溶けてしまった。
何をするんだろう……と見守っていたところ、亀は大樹の側までのしのし歩き、キラキラ輝いている幹に噛みつき始めた。
「うわぁ! いきなり何してるんだ!?」
「見事に食ってるな……」
ともだちにシェアしよう!