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第1989話
「え……それじゃイタチごっこなのでは? ヴァルキリーたちを止める術はないんですか?」
「あいつらの出方にもよるが、最悪、本当に全面戦争に発展するかもしれんな。そうなったら、ラグナロク以来の大きな戦争になるだろうよ」
「そんな……」
それはそれでどうなのだろうか。
ヴァルキリーがあんな調子じゃ話し合いはできそうにないが、だからといって「じゃあ戦争だな」と気軽に始められるものでもない気がするのだが……。
「まあ、まだそうなると決まったわけじゃない。まずは帰って兄上に報告しよう。長居は無用だ」
「は、はい……」
アクセルはホズに連れられ、洞窟を抜けた。帰り道もガーディアンにたくさん遭遇しそうになったが、何とか見つからずに地上に戻ることができた。
「う……」
数時間ぶりの地上は、やたらと眩しく感じた。実際の時間はたいしたことないはずなのに、何日も地下に閉じ込められていたように思えてくる。
――やっぱり、広々とした地上が一番だ……。
アクセルたちは軽い足取りで世界樹 を通り、まずはバルドルの屋敷に向かった。
「そろそろ帰ってくる頃だと思っていたよ」
バルドルは笑顔で屋敷に迎え入れてくれて、おやつ代わりの軽食を振る舞ってくれた。サンドイッチやクッキーが美味しすぎて泣きそうになった。
夢中になって頬張っていたら、ふと例の亀のことが頭をよぎった。彼も起き抜けに結晶に齧りつき、無我夢中で食事していた。
あの亀も、食事をしている時はこんな気持ちだったのかな……。
「首尾よく供給源を処理できたみたいだね」
「ええ、何とか。とはいえ、実際に供給源を破壊したのは謎の亀だったんですけどね……」
アクセルは報告も兼ねて、最深部で起こったことを詳しく説明した。
酸の泉に困っていたら、壁から謎の亀が現れたこと。その亀が切り出した結晶をバクバク食べ始めたこと。ついでに泉を渡らせてくれて、渡った先の魔力の供給源(大樹)も食い尽くしてしまったこと……等々。
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