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第1990話
「そうなんだ……。そんな生き物がいたなんて、私も知らなかったなぁ」
「バルドル様もご存じなかったんですか」
「神だからって、何でも知っているわけじゃないからね。その亀のことは後で調べておくよ。今回はたまたま運がよかっただけで、もしかしたらものすごく獰猛な食い尽くし系の亀かもしれないし」
「く、食い尽くし系……」
「そういう亀もいるかもしれないってこと。何にせよ、大きな怪我がなくてよかったよ」
確かに、今は無事に帰ってこられたことを喜ぶべきなのかもしれない。
靴は少し溶けてしまったがアクセルはほぼ無傷だし、ホズにも大きな怪我はない。一番の目的は達成できたのだから、上々の戦果であろう。
軽食を平らげ、しっかり礼を言ってアクセルはヴァルハラに帰った。早く兄に戦果を報告したくて仕方なかった。
世界樹 を通って掲示板前まで辿り着いたのだが、ヴァルハラは既に陽が暮れかけていた。きっと兄も家に戻っていることだろう。
「ただいま」
ベランダから家に入ったら、うさぎ小屋からピピがすっ飛んできて嬉しそうにじゃれついてきた。何だかピピの顔も久しぶりに見た気がする。
「ピピ、留守番ご苦労様。いい子で待ってたか?」
「ぴー♪」
「よしよし、今からご飯作るからな。ちょっと待っててくれ」
とりあえず一度リビングに上がる。
何かを調理中だったのか、キッチンから兄が包丁を持って出てきた。
「おかえり、アクセル。仕事は上手くいったかい?」
「ちょ……兄上、手が血塗れだぞ! ちょっとしたホラー絵になってる」
「あ、ごめんごめん。さっき捕ったばかりの新鮮なイノシシを捌いていたもので。今日は久しぶりにイノシシ肉のシチューを作るよ」
「……そ、そうか。まあ兄上の方も食料調達は順調だったみたいで、何よりだ」
早速アクセルも一緒に食事の準備をする。
食料庫を覗いてみたら、イノシシ肉の他に大量の山菜も保管されていて少し安心した。これで毎日肉と小麦粉だけの食事にならなくて済みそうだ。
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