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第2008話

 こんな風に、何の気配も感じないなんておかしい。音は聞こえなくても獣や血の臭い等、そういった嫌な空気が何かしらあるはずなのだ。 「ピピ、本当に何も感じないか? 何か聞こえたりしないか?」 「ぴ……」  ピピはもう一度耳をすませていたが、やはり何も聞こえないのかふるふると首を横に振った。  こうなってしまうと、アクセルはもうお手上げだ。  ――どうしよう……。  兄を捜しに行きたい……が、こういう時に勢いのまま捜索してしまうと絶対に自分が罠にかかってしまう。闇雲に歩き回るのはNGだ。  でも兄のことは心配だし、どうしてこんなことになっているのか知りたい気持ちは強い。  一体どうすれば……。 「ぴー」  ピピが服の裾を噛み、「ダメだよ」と止めてくる。より気配に敏感なピピが止めてくるのだから、やはりこの先に進むのは危険なのだろう。それで少し冷静になった。 「わ、わかったよ……。無闇に捜索することはしないって。もしかしたら兄上、全然違う場所で狩りをしているだけかもしれないしな……」 「ぴー」 「とりあえず、一度戻って誰かに食料調達組について聞いてみようか。それからどうするか考えよう」  アクセルはピピと一緒に一度山を下りた。そして広場で救助活動を行っている戦士に尋ねてみた。壊された住宅街もだいぶ整地されており、今は仮設のテントがちらほら建てられている。 「ちょっとすみません、今日の食料調達係はどうなっていますか?」 「どうって……あそこで肉を捌いてるだろうが」 「えっ……?」  見れば、複数の戦士が熊やイノシシ等の大物を囲み、部位ごとにせっせと解体していた。  その中には兄の姿もあった。 「なんだ、兄上……ここにいたのか。てっきり山で狩りをしていると思ってた」 「ああ、今日は狩りはやめて配給を分配する方に加わったんだ。昨日たくさん獣を狩ったし、いいかなと思って」 「なんだよ……。それならわざわざ『山においで』なんて置き手紙しなくてもよかったのに」  そう言ったら、兄は怪訝な顔でこちらを見てきた。

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