2009 / 2203

第2009話

「……置き手紙? 私、そんなの書いてないよ」 「え? いや、そんなはずないだろ。朝食の皿の横に兄上の字で『これ食べたら山においで』ってメモが置いてあったぞ」 「え……」  兄が手を止め、やや眉を顰めて近づいてくる。 「何それ? 本当に知らないんだけど。お前の見間違いじゃないの?」 「えっ? いや、そんなはずは……。俺は本当に兄上のメモを見て山に……」 「でもそれはあり得ないでしょ。私はそんなメモ書いてないし、仮にそのメモがあったとしたら、他の誰かが書いたってことになっちゃうよ? そっちの方があり得なくない?」 「それは……」  確かにあり得ない。  仮に兄以外の誰かがあのメモを置いたのなら、自分が寝ている間に家に忍び込んで、朝食の隣にメモを置いたことになってしまう。しかもベランダのピピにすら気取られずに。  ――そんな……。じゃあメモを見たと思ったのは、俺の勘違いだったってことか……?  起き抜けだったから、頭がボケていたのだろうか。絶対に見たと思ったのに、ここまで否定されるとだんだん自信がなくなってきてしまう。  複雑な気持ちを抱えていると、兄があえて明るい口調で話を逸らしてきた。 「それはともかく、お前も今日はこっちでお肉捌くの手伝ってくれない? 詳しい話はまた後で聞くからさ」 「あ、ああ……わかった」  仕方なくアクセルは、兄に言われた通り熊やイノシシを部位ごとに捌くことにした。獲物自体がかなりの大物だったので、腕一本斬り落とすだけでもかなりの労力を要した。  しばらく肉の切り分けに集中していたのだが、お昼過ぎになって一度休憩を挟むことになった。  アクセルは一度兄と家に戻り、昼食をとることになった。 「じゃ、詳しい話を聞かせてもらおうか」  帰って早々、兄が先程の話の続きを促してくる。  アクセルは昼食の準備をしつつ、今朝起きてから広場に行くまでのことを細かく説明した。 「あっ……そうだ! ゴミ箱にまだメモが残ってるかもしれない」  メモを見てすぐリビングのゴミ箱に捨てたことを思い出し、ゴミ箱を漁ってみる。

ともだちにシェアしよう!