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第2010話

 だが、それらしいメモは見当たらなかった。 「お、おかしいな……確かにここに処分したんだが……」 「ないの?」 「あ、ああ……。でも俺、本当に……」  自分の声がだんだん小さくなっていく。  メモを見た後、何の気なしにここに捨てたのだが、それすらないとなるとやはり自分の勘違いだった可能性が高くなってくる。  ――うう……なんか地味にショックだ……。  自信満々に山に出掛けたのに、それが勘違いでした……というのはいろんな意味で格好がつかない。ピピにも迷惑をかけてしまった。  がっくりと項垂れていると、兄が優しく肩を叩いてきた。 「普通に考えれば、お前の勘違いだった……となるところだけど、ここはヴァルハラだからね。摩訶不思議なことが起きても不自然じゃない。今までだって意味不明な現象はたくさん起きてきたし、謎のメモが湧いてくることもあるのかもしれない」 「え……信じてくれるのか?」 「そうだね。お前が私に嘘をつくわけないし、起き抜けの勘違いってのもちょっと納得できない。お前、一度起きたら覚醒は早いしね。メモを見て山に行ったっていうなら、きっとそれが本当なんだろう」 「あ……ありがとう……!」  思った以上に気持ちが軽くなり、アクセルはパッと顔を輝かせた。  自分のことすら信じられなくなってきた矢先、兄は当たり前に信じてくれた。それが本当に嬉しかった。少し自信も回復した。 「ただ、本当にそのメモが存在していたのだとすると、今度は違う疑問が湧いてくるね。一体誰がそんなおかしなメモを残したのか、何のつもりでメモを書いたのか。山の雰囲気がいつもと違ったってのもすごく気になる」 「そうなんだよな……。ピピも何の気配も感じなかったって言ってたし……なんか、いろいろハッキリしなくて薄気味悪いよ……」  そう言ったら、兄はじっとこちらを見てきた。  そして両手でアクセルの顔を挟み、至近距離で溜息をついてくる。 「お前、また何かにマークされているんじゃない?」 「……マ、マーク?」

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