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第2029話

 ――確かによく「働くの面倒だなぁ」っていうけど……俺との狩りだったら喜んで出掛けるはずだよな……?  何かさっきから変だ。兄らしくない。  朝のコーヒーだって兄は好きだったはずだし、ハチミツ入りレモン水は鍛錬後にしか飲まない。ジュースのようにがぶ飲みすることはない。  ――まさか……!  ぞっとした考えが脳内を()ぎり、アクセルは兄を凝視した。  この兄……今自分の目の前にいる兄は、既にメリナに身体を乗っ取られているのでは……? 「どうしたの? そんなジロジロ私を見て」 「えっ!? あ、いや……」 「私の顔に何かついてる? 目と鼻と口以外はついてないと思うんだけど」 「…………」  純粋に不思議がっている兄を見て、アクセルは逡巡した。表情だけ見ると、とても偽物とは思えなかった。  ――どうしよう……。  兄とは昨日「何かあった時はお互い助け合おう」と約束した。トラブルが解決するなら、相手を斬るのもやむなしと確認したはずだ。  でも……いざ兄を目の前にすると、斬りつける手がどうしても鈍ってしまう。  ――死合いや手合わせで最初から斬る気満々ならともかく、何もないところからいきなり抜刀するのは……。  こういう時、兄なら問答無用で斬りつけることを選択すると思う。例え肉体が破損してもどうせ復活できるから、後のことはどうにでもなる……そう考えるに違いない。  だけどアクセルは、死合いや手合わせ以外で兄を傷つけるのは強い抵抗があった。  生前は血塗れになった兄を見たショックでそれ以降の記憶がなくなってしまったし、ヴァルハラに来てからは特別訓練で兄を刺し殺してしまったこともある。やり直しができるとはいえ、その出来事はアクセルにとって強烈なトラウマになっていた。  だから正直、今の状態では兄に刃を向けることはできない。  頭では「さっさと斬った方がいい」とわかっているのだが、心がそれを強く拒否しているのだ。  ならば、どうすればいい?  兄の言動に不審な点があるのは事実だし、ずっと見て見ぬフリをし続けることはできない。

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