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第2031話

 兄は俯いたまましばらく無言だった。  だが数秒の後、肩を震わせながら奇妙な笑い声を漏らした。 「なんだ、おもったよりバレるのがはやかったね」 「っ……!」  兄が顔を上げた。その顔はいつもの兄と同じだったが、口元が醜く歪んでいた。兄の笑い方ではないのは一目瞭然だった。 「……きみ、メリナだろ」 「うん、そうよ。きんぱつのお兄ちゃんがヒマそうにしてたから、からだをかしてもらったの」 「悪いがそれは兄上の身体だ。きみのものじゃない。さっさと出て行ってくれ」 「イヤ。おとなのあそびをするまではかえさない」 「……。なあ……ひとつ確認しておきたいんだが、きみの言う『大人の遊び』っていうのはつまり、その……セックスのことだろ?」 「そうよ。お兄ちゃんも、こっちのお兄ちゃんとイイかんじにあそんでるんでしょ? すごくたのしそうなの、わたししってるんだから」  ……夜の出来事を逐一知られているのも、それはそれで恥ずかしい。というか何で知ってるんだ、この小娘は。 「さ、わたしといっしょにあそびましょ」  兄――いや、メリナはこちらに両手を伸ばし、にこにこと微笑みながら近づいてきた。 「…………」  姿かたちは兄そのもの、声もいつもと変わらない。  でも……本性を剥き出しにされると、見た目が同じでも全くの別人に見えてくる。  最初は斬っていいか躊躇っていたものの、自分勝手な小娘が敬愛する兄の身体を動かしているのかと思ったら吐き気がした。兄の顔と声でこちらに媚びを売ってくることが許せなかった。  我慢できなくなり、アクセルは小太刀を振って右の二の腕を斬りつけた。 「……え?」  兄の右腕が吹っ飛んだ。  メリナは何が起こったかわからなかったのか、呆けた顔で肩付近を見た。 「……ギャアアァァッ!」  直後、とんでもない悲鳴が空気を振るわせた。兄の声で叫ばれるのが、今は何より不快だった。  ――兄上はこんなみっともない声で叫んだりしない……!

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