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第2032話

 ますます腹が立ってきて、左肩から右脇腹までざっくり斬ってやった。  肉と骨が切れる手応えと共に、生温かい血液が勢いよくこちらに飛んできた。 「ギャッ……!」  斬撃に耐えきれず、メリナがどっ……と地面に倒れ伏した。  まさか本当に斬られるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。 「な、んで……? お兄ちゃん、お兄ちゃんのこと、すきじゃないの……?」 「もちろん好きだよ。世界で一番尊敬してるし、愛してる。兄上がいなくなったら、俺はきっと生きて行けない」 「なら、どうして……」 「だからこそ! きみみたいな人に勝手に使われるのが許せないんだよ! 兄上の身体は兄上だけのものだ! 早く出て行け!」 「ギャン!」  乱暴に身体を蹴飛ばしてやったら、メリナは潰れたような声を発した。兄の身体をこんな風に扱うのは、きっと最初で最後だろう。その点に関しては申し訳ない。 「うう、う……いたぃ……いたぃよぉ……」 「だったら早く兄上の身体から出て行けよ。兄上の姿でみっともなく泣くな」  アクセルは冷たい目でメリナを見下ろした。  自分でも驚くほど冷酷な態度をとっているのがわかり、目の前で彼女が泣いていても一ミリも可哀想と思えなかった。  ――誰かに対してこんなに冷たくなれたのは、初めてかもしれない……。  冷静な自分が頭の片隅で呆れている。  自分でも何でこんなことができるのかわからない。過激な兄を止めるのは自分の役目だったのに、いざその立場がこちらに回ってくると同じように過激なことができてしまう。  性格は違っても、何だかんだ「兄弟」ということか。嬉しくもあり、恐ろしくもある。 「ひ、ひどい……みんな、わたしをいじめて……」  血まみれになりながら、ぐすぐす泣きじゃくっているメリナ。 「わ、たし……ただ、あそびたかった、だけ、なのに……。おとな、みたいに、たのしいこと、したかった、だけ……」 「本当の大人っていうのは、他人に迷惑をかけずに楽しいことをするものだ。そういう意味でも、きみは『おとなのあそび』をする資格がない」

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