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第2033話

 アクセルは急いで昨夜バルドルからもらった鏡を取りに戻った。  そしてメリナの目の前に突きつけて、言った。 「きみはしばらくこの中で『大人になるため』の修行をしてくるべきだ。本当の大人とはどういうものか、じっくり考えた方がいい」 「う、う……」 「ほら、早くしてくれ。これ以上もたもたしていると、今度は首を斬りたくなってしまう。憑依状態で身体の首を斬られたら、きみは一体どうなるんだろうな?」 「く……」  恨めしい顔でじろりと見上げられたが、今のアクセルには効かなかった。 「……そんな目で見るなよ。元はと言えば、きみが兄上の身体を勝手に乗っ取ったのがいけないんじゃないか。兄上の姿になれば俺をどうにかできるって思ったみたいだが、さすがの俺もそこまで甘くない。兄上じゃないことくらいすぐにわかるし、中身が違う人物を『兄上』として扱えるほど俺は寛容にできてないんだよ」 「うぅ、う……うえぇぇ……」 「泣いている暇があったら早くその身体から出ろ。むしろこの程度で済んでありがたいと思え。四肢を斬り落とした上で、生かさず殺さず拷問することもできたんだからな。そこまでされたくなければ、今すぐ出て行け」 「…………」 「10……9……8……」  わざとらしくカウントダウンしてやったら、メリナは涙声でこんな言葉をぶつけてきた。 「お、かしい、よ……。だいじなひとなら、ぜったい、きずつけられない、のに……。お兄ちゃん、お兄ちゃんのこと、だいすきだって、いってたのに……。なんで、こんな……。ぜったい、へんだよ……」 「……!」 「すきなひとの、からだを……おもいっきり、きっちゃうなんて……」 「……そうだな、変かもしれない。例え復活が可能だとしても、一番大事な人を斬ってしまうのは本来なら考えられないことだ……」  そういう意味では、自分もすっかりヴァルハラ色に染まってしまったと言える。  ここに来たばかりの頃は、踏み潰されそうな子ウサギですら助けていたのに、今じゃすっかり「復活できるから大丈夫」という思考に変わってしまった。

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