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第2034話

 現に今も、「どうせ棺に入れれば解決するから」と容赦なく兄の身体を斬ってしまっている。復活できない身からすると、こんなこと絶対にあり得ない。  でも……。  ――それは、「正しいか間違っているか」以前の問題なんだよな……。  神々には神々の、人間には人間の、戦士には戦士の価値観や倫理観があるのだ。神々の倫理観は戦士には通用しないし、逆もまた然りである。  メリナからすれば、アクセルのやっていることは信じられないのかもしれない。だからこそ「好きな相手なら手出しできないだろう」とタカを括って兄の身体を乗っ取ったのだ。  その浅慮さがまだまだ子供だし、詰めの甘い部分だよなと呆れるばかりである。  そもそも、兄だったらもっと過激な方法で彼女を斬り刻んでいたはずだ。それに比べれば自分のやり方は(ぬる)いくらいだと思う。 「う、うぅ……うわあぁぁん!」  メリナが悲鳴を上げた。兄の声で発せられた悲鳴は徐々に少女の悲鳴と混ざっていき、やがて完全に少女そのものとなった。  鼓膜を破るような不愉快な声はみるみる鏡に吸い込まれて行き、ボリュームを捻るようにどんどん小さくなっていった。最早どうにもならないと悟り、泣きながら鏡に逃げて行ったようだった。  完全に声が聞こえなくなったところで、アクセルは急いで鏡を地面に伏せた。そして厚手のタオルで鏡全体を覆い、何も映らないよう念入りに縛った。 「……う……」 「っ! 兄上!?」  兄が小さな呻き声を発した。  アクセルは慌てて鏡を放り投げ、兄の側に駆け寄った。 「ご、ごめん兄上! すぐ泉に連れて行くから……」 「い、い……。それより、鏡を……バルドル様のところに……」 「えっ……!?」 「こんな傷……どうにでもなる、よ……。早く、行っておいで……」 「だけど……」  正直、かなり迷った。自分が斬った手前罪悪感が半端なかったし、手負いの兄を放置して鏡を優先するのは、アクセルの心情的にかなり抵抗があった。

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