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第2035話

 でも……ここでもたもたしていたら、肝心の封印が中途半端になってしまう。せっかくここまでやったのに、失敗したら元も子もない。 「……わかった。できるだけ急いで帰ってくるから、兄上はもう少し耐えていてくれ」  アクセルはタオルに包まれた鏡を抱え、全速力で世界樹(ユグドラシル)まで走った。  ゲートを潜り抜け、バルドルのいるアース神族の世界(アースガルズ)に向かい、挨拶もそこそこに鏡を突き出す。 「えっ? もうメリナを封印してしまったのかい?」 「はい、どうにか。なので後はバルドル様にお任せします」 「それはいいけど、フレインはどうしたの? 今日は一緒じゃないの?」 「いや、その……。これから帰って泉に入れてあげないといけないので……」  そう言ったら、バルドルは全てを察したように口を閉ざした。  そして静かに微笑むと、短くこう言った。 「わかった、ご苦労様だったね。フレインが元気になったら、また一緒に遊びにおいで」 「はい、ありがとうございます。では失礼します」  アクセルは大急ぎでヴァルハラに戻り、自宅に直帰した。 「兄上!」  庭の柵を乗り越えベランダに直行したのだが、兄は既に血の海に沈んでいた。 「え……? は……?」  仰向けで目を閉じたまま、微動だにしない兄。恐る恐る近づいたが、もう息をしていなかった。  兄の手には血まみれのナイフが握られていて、頸動脈を掻き切られている。とんでもない出血量だったのはこのせいか。 「は……? な、何で……? 何でこんな……」  泉に入れば助かったはずだ。わざわざ死ぬ必要はなかったはずだ。  それなのに、どうしてこんなことを……。自分がいない間に一体何があったんだ……? 「ぴー」  うさぎ小屋から、ピピが鳴く声が聞こえた。  ハッとして、アクセルはそちらに目をやった。 「ピピ、大丈夫か? 何があったんだ? まさか誰かに襲撃されて……」  するとピピはふるふると首を横に振った。そしてたどたどしくこう答えた。 「フレイン、じぶんでやった」 「はっ……?」

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