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第2036話

「じぶんで、じぶんをきった。いずみにはいるより、いちどしんだほうがはやいって」 「え……そ、そうなのか……? それは……いや、でも……」  どう考えても泉の方が復活は早いと思うのだが……意識があるまま、何十分も冷たい泉に浸かっていなければならないのが嫌だったのだろうか。  気持ちはわからんでもないが、だからといってそんな簡単に自分の首を切ってしまうのは……何というか、自分を大切にしていない感じがして悲しい。何のために急いで帰ってきたと思っているのか。  ――同じことをしても、やっぱり俺と兄上では根本的に考え方が違うのかもな……。  前々から少し思っていたが、兄の根底には「弟が助かれば自分はどうなっても構わない」みたいな投げやりな気持ちが含まれている気がする。  アクセルは「自分が助かっても兄上が死んじゃったら意味がない」と考えるタイプなのだが、兄はそうではないようだ。  ……俺は、兄上が血の海に沈んでいる姿なんて二度と見たくないんだけどな……。 「ぴー」  ピピが前脚でペシペシと注意を促してくる。  何かと思ってベランダの隅に目をやったら、そこには見慣れた棺がひとつ置いてあった。 「あれ? これ、棺か……? 何でこんなところに……」 「まるた、くれたひと、もってきた」 「えっ……?」  丸太とは……もしやピピお気に入りの「硬い木材」のことだろうか。  そんな人物、一人しか思いつかない。 「まさかアロイスか? アロイスがうちに来たのか? 復活できたってことか?」  うんうん、と頷くピピ。  たどたどしいピピの説明によると、どうやらアロイスは復活できた礼を言いにわざわざうちまで来てくれたそうだ。  だが兄・フレインがこんな状態なのを知ると、すぐさま館から棺を担いで持ってきてくれたらしい。  ――血まみれの兄上を勝手に運び出すわけにはいかないとでも思ったのかな……。逆に棺を持ってくるとは、ある意味アロイスらしいというか……。

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