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第2041話

「中堅ランカーが一気に棺や泉を使ったせいか、オーディン様の魔力が追いついていないんだよ。全く回復しないわけじゃないが、回復速度が明らかに落ちている」 「えっ……!? それ本当なんですか?」 「ああ。俺も昨日の狩りでできた切り傷を治しに泉に入ったんだが、三〇分以上浸かっても傷口が塞がらなかった。何なら今でも傷跡として残ってるぞ。見せてやろうか」  そう言ってジークが、シャツの裾をぺろんと捲り上げる。  彼の脇腹には、獣の爪でやられたらしき傷跡がかなりくっきり残っていた。さすがにぎょっとしてしまった。  ――ってことは、兄上の復活がいつもより遅いのはそれが原因で……!?  道理でいつまでも起きてこないと思った。  アクセルは縋りつくようにジークを見上げた。 「あ、あの……それって回復速度が落ちているだけで、全く回復しないわけじゃないんですよね? 少しずつでもちゃんと回復するんですよね?」 「一応な。だがこういうことがあるってことは、棺や泉が使えなくなる可能性もゼロじゃないってことだ。オーディン様の魔力が枯れれば、俺たちも復活できなくなる」 「そっ……」 「俺たちの復活は、あくまで『オーディン様の魔力頼り』なんだよ。だから今だけでも、自分の身は大事にしとけ。余計な傷は増やすな。フレインが復活したら、あいつにもそう忠告しとけよ」 「は、はい……」  ジークがすっ……と立ち上がった。また狩りに行くつもりなのか。いつもの槍を抱え直し、悠々と離れていく。 「あ、あの……ジーク様……!」 「どうした?」 「いえ、その……どうかお気をつけて」  そう言ったら、ジークはちょっと微笑んでフリフリと手を振ってくれた。  その後は陽が暮れるまで食料の仕分けを手伝い、配給として分け前をもらってから家に帰った。  寝室を確認しに行ったのだが、残念ながら棺はまだ閉じたままだった。  ――兄上……。  時間がかかっても、復活できるならそれでいい。  だけど、こうなることを知っていたらもっと別の方法を考えた。怒りに任せてメリナを斬り刻んだりしなかった。

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