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第2042話

 今更悔やんでも仕方ないが、やっぱり兄がいないのは寂しい……。  軽く溜息をつき、アクセルは食料庫から余っていた小麦粉を取り出した。それと水を混ぜてこね、パン生地もどきを作って焼き上げた。  残っていたハチミツを垂らしてピピに食べさせてやったのだが「なんできょうはやさいがないの?」みたいな顔をされ、少し苦笑いした。 「ごめん、さっきアロイスに豆のスープを作ってあげたら野菜がほぼなくなってしまったんだ。明日山菜でも採ってくるから、今日はこれで我慢してくれ」 「ぴ……」  じゃあ仕方ないか……ともそもそと口を動かしているピピ。  そんなピピの様子を横目で見ながら、アクセルも機械的にパンもどきをかじった。  ――この先もずっと、こんな生活が続くのかな……。  中堅ランカーの復活は進んでいる……はず。市場が再開するのも時間の問題だと思いたい。  でも、このまま何事もなく元の生活に戻れるかと言われたら……正直、あまり楽観的なことは言えない気がした。  アロイスが言っていたように、ラグナロクが終わった時に自分たちの役目も終わったのだ。ヴァルキリーたちが戦士ごとヴァルハラを閉鎖しようとしても不思議じゃない。今までも管理が雑だったし、大いにあり得ると思う。  もしそんなことになったら、自分たちは一体どうやって生きていけばいいのだろう……。  もんもんと悩みながら、食事に使った皿をキッチンで洗った。  そのままぼんやり寝る支度をしていると、 「……!」  寝室の方でガタッと音がした。  急いで寝室に走っていったら、兄が棺の中で起き上がっているのが目に入った。 「……兄上!」  棺に駆け寄り、兄の顔を覗き込む。 「やっと復活したのか。よかった……全然起きないから心配してしまった」 「ああ……ごめんね、アクセル。仕事は上手くいったかい?」 「ああ、もちろんだ。ちゃんとメリナは封印したし、その鏡もバルドル様に預けに行ったぞ」 「そっか……よかった。ご苦労様」  にこりと微笑み、ゆっくりと立ち上がる兄。

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