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第2051話*(リバ注意)

「だからお前も、変な無茶はしないこと。生き延びることを最優先に行動するんだよ。特にお前は私よりそそっかしいから、いつどこで敵の罠に引っ掛かるとも限らない。そういう時は、誇りは全部捨てて逃げるようにね。逃げるのが恥ずかしいとか考えなくていい。生きていれば、例え一時的に離れちゃったとしても必ずまた会えるから……」 「…………」 「わかった? お返事は?」 「……はい、兄上……」  アクセルは深く頷いた。  敵前逃亡など戦士として最大の恥である。雄々しく戦って死ぬことが美しいのだと教えられてきたアクセルにとっては、逃亡していいのかという迷いもあった。逃げるくらいなら死んだ方がマシだと思っていた時期もあった。  だけど、それは時と場合による。  死んだ方がマシだと思うのは、死んでも復活できる(もしくは死んだ後に行きつく先がある)のが大前提であり、そうでない場合はおいそれと死んでやるわけにはいかない。  大切な人が待っている、やるべきことがまだ残っている……等、大きな未練がある場合は戦士の誇りを全部捨てて逃げるしかないのだ。  ――それに……兄上の場合、「逃げる」と決めたら躊躇わずに逃げるだろうしな……。  そういうところの開き直りは、自分より兄の方が早い。アクセルがその場に留まろうとしても、兄はこちらを無理矢理引き摺って逃亡するだろう。  だから、いざ戦争になっても死に別れることはないはずだ……きっと。 「ところで、そろそろ落ち着いた?」 「えっ? ……あ」  ハッと我に返り、アクセルは顔を上げた。そういえば、ずっと兄の中にいることを忘れていた。 「あっ……ご、ごめん……! ずっと刺さったままで苦しかったよな……?」 「いや、大丈夫。一度馴染んじゃえばそれほどでもないよ。むしろちょうどいい圧迫感でホッとするかも」 「っ……」  艶やかに微笑んでくる兄に、ごくりと喉が鳴った。  全身の肌にぞわわっと鳥肌が立ち、落ち着いていたはずの興奮がまた燻り始める。

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